<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:60
プロフィール:生まれてから6回目の年男、誰もが子どもに還る齢を迎えた地方公務員です。
「いよいよ俺も高齢者かあ...」
昨年、2021年の末、カレンダーが最後の1枚になると感慨もひとしおでした。
12月生まれの私は、いよいよ還暦を迎えます。
それなりに生きていれば誰もが通る瞬間ではありますが、我が事となるとやはりぐっと来るものがあります。
「ああ、いよいよ今年も最後の1枚か、ほんと1年って早いよね」
妻(57歳)がカレンダーを見ている私の背後から声をかけてきました。
「全くだな。門松は冥土の旅の一里塚ってな、めでたくもあり、めでたくもなし、だ」
「また墓場に近づいたってわけ? 年取ったもんよね、お互い」
のんきな調子の妻に「あれ? まさか、気づいてない?」と不安に駆られました。
そうは言っても、さすがに人生の転機の一つ、忘れちゃいないだろうと思いながら誕生日当日を迎えました。
「何だ? 遅くなるのかな? 大事な日だってのに...」
最近は認知症気味の義父(84歳)の世話をするために、義実家で過ごす時間が増えた妻でしたが、夕食の時刻になっても帰ってこなかったのです。
ヤキモキしていると電話が鳴りました。
ナンバーディスプレイで義実家からだと分かりました。
「すっかり遅くなっちゃったから、夕食済ませて帰るね」
妻の言葉に耳を疑いました。
「え? ...あのさ、今日、何の日か覚えてる?」
我ながら情けないほど、ぼやき気味の声で問い返した私。
「え? なんかあったっけ? ...とりあえず、夕飯は済ませておいてね、じゃ」
なんとも寂しい返事で電話は切れました。
年月を経ると愛情も薄れるもんだな...いや、そもそもあんまり愛されてなかったかもな...などモヤモヤとした疑念を抱きつつ、一人の夕食を済ませました。
「そもそも誕生日だって言うのに、一人で魚を焼いて、冷めたご飯チンして、って、人生で最も寂しい誕生日かもしれんなあ...」
すっかり落ち込んでしまった私は、そのままこたつにもぐり込んでしまいました。
「...ちょっと、風邪引くよ」
突然の妻の声で目が覚めました。すっかり寝入ってしまっていたようです。
「...ああ、お帰り...フアア...って、あれ?」
起き上がった私の目の前にケーキが置かれています。
「え? これ...」
「けっこうサプライズって大変ね。家でケーキ作るとバレちゃうからさ...」
そう言えば子どもたちが小さい頃は、妻はよくケーキを手作りしていました。
でも、私の誕生日には初めてのことです。
「久々だから、けっこう忘れちゃっててね」
気恥ずかしそうな妻が差し出す切り分けたケーキの上には小さなプレートが乗っています。
「生まれてきてくれてありがとう」
そう書かれたチョコレートの文字が並んでいました。
「ま、人生リスタートですからね。今後ともヨロシク!」
と言いながら頭を下げる妻の姿を見て、改めて私には過ぎた妻だ、と見直しました。
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