<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ころちゃん
性別:男性
年齢:55
プロフィール:そろそろ老後のことが気にかかり、ついつい節約に励む今日この頃です。
10年程前、私が高校の同級生のAさんの自宅に短期滞在したときの話です。
当時、私は長期入院後の病み上がりで、職場復帰に向けてリハビリ中でした。
そんな私を心配した友人のAさんが、遠く離れた彼の自宅に「観光も兼ねておいでよ」と招待してくれたのです。
Aさんとは高校以来の付き合いで、同年齢の奥様、そして当時10歳だった息子さんとも顔見知りでした。
そのため、この誘いをありがたく受けることにしました。
彼の家は新築で、訪ねるのは初めて。
こじんまりした彼らの家は清潔で心地よい場所でした。
ただ「あれ?」と思ったのは、その広さと3人家族の割には、1階と2階に立派なトイレがあることでした。
トイレの壁には小さな棚がついていますが、何も置いてありません。
それについて口にするまでもなく、すぐにその理由が判明することとなりました。
Aさんがトイレと言って席を外してからなかなか戻らないので、私は彼の奥様に声をかけました。
「トイレから出てこないけど大丈夫?」
「まだ30分よ」
いぶかしむ私に彼女は説明してくれました。
Aさんは家でトイレに行く際、必ず本を持っていき、30分から1時間ほど出てこないことはざらだというのです。
彼女はこの習慣を結婚前に知ったとのことで、当初は煩わしく感じたものの、必要が生じればすぐに出てくるため特に害がないと気付き、いまではすっかり慣れたと話していました。
しかし、息子も父親を真似てトイレに本を持ち込む習慣がつき、念願のマイホームを建てる際は、家族間の不都合を防ぐためトイレを2つにしたとのことでした。
驚きましたが、彼女は友人なら誰でも知っていると思っていたと笑いました。
翌朝になると、さらに驚かされる出来事がありました。
気配を感じて目を覚ますと、友人が私の寝ている部屋の壁伝いにゆっくり動いています。
「悪いな、起こしたか?」とAさん。
「何かあったのか?」と私が反応します。
Aさんの異様な様子に、私は布団の上に起き上がり尋ねました。
彼はラジオを片手に、そこから伸びたコードを壁のあちこちに当てているのです。
「今日はどこか面白い局が入る気がして」
彼が高校時代からラジオが好きで、深夜放送をよく聴いていたのは知っていました。
しかし、Aさんが言うにはチューニング次第で想像もつかないような場所の放送が受信できるとのことで、日々可能な限り多くの放送を受信しようとがんばっているというのです。
ラジオからは、ザーザーという雑音に混じり信号音のようなものや日本の放送と思えないものまで、様々な音が入り乱れて聴こえてきます。
彼はアンテナ線をあちこちに向けてチューナーを回し続け、やがて比較的明瞭な日本語が聴こえ始めるとスピーカーに耳を当てて言いました。
「やった! 今日は北海道放送だ!」
まさかこの家で北海道放送が聴けるとは思っていなかった私は、純粋に珍しい体験をさせてもらったとその場では感心しました。
しかし、これが1日中続くとなると話は別です。
Aさんは在宅中、常にラジオを手放さず、なにか感じることがあると、アンテナを伸ばしてチューナーを回して調整します。
彼の影響を受けた息子までもが、、ザーザー音がする別のラジオを持って廊下を這いつくばっています。
「手伝ってくれ!」
Aさんのこの一言で息子がかけつけ、妻も苦笑いしてラジカセを支えたりしています。
彼の真剣な眼差しとアンテナで壁を探る姿は、あたかもどこかの国のスパイのようで異様でした。
滞在中は私も付き合わされてしまい、ある意味疲れる日々となりました。
この風変りな習慣以外は、彼らは平均以上に真面目で幸せな家族です。
人気記事:ああ、ばあさんよ、どこへ行く...義母が楽しみにしているショッピングでの悲劇《なとみみわ》
人気記事:《漫画》名家に嫁ぎ「どこの出身か存じませんが」と言われ...劣等感まみれの私が妊娠したら...<前編>
人気記事:《漫画》義母と私の関係は良好! なのに...一歩たりとも「我が家に上がらない」のはなぜ?<前編>
- ※
- 健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
- ※
- 記事に使用している画像はイメージです。