「声」を武器にした江戸時代の隠密。人を傷つけずに戦う、新時代のエンターテインメント時代小説

黒つぐみとは20センチほどの黒い鳥である。胸から腹にかけて白色で、黄色い嘴を持つという愛らしい見た目のこの鳥は、他の鳥の鳴き声を真似て、自分のさえずりに織り込むことができるという。

そんな黒つぐみを家紋に持つ隠密が主人公の『雪渡の黒つぐみ』(桜井真城/講談社)は、第18回小説現代長編新人賞を受賞した、エンターテインメント時代小説である。

※この記事はダ・ヴィンチWebからの転載です。

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『雪渡の黒つぐみ』(桜井真城/講談社)

舞台は戦国の気風も過去となりつつある、1625年。東北。

老若男女問わず様々な声を発することのできる「声色遣い」の望月景信(もちづき・かげのぶ)は、南部家の隠密、間盗(かんとう)役の一員だ。

ある時、景信は、その声色遣いの能力を活かした任務に就くことに。

紫野(しの)という侍女が、敵方の黒脛巾(くろはばき)組の内偵だということが判明したのだ。景信は紫野の声色を使って、彼女が仲間と落ち合う際、密偵を南部家に送った理由を探ろうとする。しかし紫野でないことがバレてしまい、敵を生け捕りにできず自害させてしまう。

こうなっては紫野自身に「忍びに入った目的」を聞き出さねばならないが、温厚な景信はなるべく人を殺したくない。......ということで、紫野に黒脛巾組を抜けて、自分たち間盗組に転ぶよう、提案する。

紫野はその申し出を受けるも、景信は彼女が何かウソをついていることを察していた。本気で味方になってくれたわけではない。だが景信は「少しずつ心を開いてもらえばいいか~」的に、のんきに構えていた。

だが、上役の浅沼から、伊達藩の動向を探る任務を命じられたことをきっかけに、彼女と多くの交流を持ったことで、景信は紫野の本心を垣間見ることができるのだが――。

その矢先、驚くべき事態に見舞われるのである。

話は急展開し、景信は迫害が進む伴天連宗や、謎の邪教・大眼宗の「闇」を知り、巨悪に迫っていくことになる。

手裏剣も吹き矢も使わず、「声」という人を傷つけない唯一無二の武器で戦う景信は、大変イマドキらしいニューヒーローかもしれない。

スゴイ能力があり、身体的には「強い」のだが、精神的な「あやうさ」を抱えている。彼の「若さ」や「未熟さ」は、冷酷無慈悲、何があっても動じない従来の忍のイメージと異なり、本作の大きな魅力になっているのではないだろうか。

彼を取り巻く個性豊かな登場人物たちにも注目だ。

紫野や、景信が恋心を抱く鈴音、景信の仲間として行動を共にする豆助。彼、彼女らは「敵か味方か分からない」、謎を秘めたキャラクターとして登場する。景信と同じように、読者も一体誰がどこまで本当のことを言っているのか、敵か味方か、ハラハラして読み進めることができるだろう。

新時代のエンターテインメント時代小説、要チェックだ。

文=雨野裾

 

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