お肌を美しくみせるためにお化粧をするという文化の始まりは、飛鳥時代にさかのぼります。最近では肌を内側から美しくするための研究が進められており、その一つとして「睡眠」が注目されています。肌のアンチエイジング効果を得るために、正しい睡眠方法を一般社団法人睡眠スパ協会の代表理事兼睡眠アプリSomnusの監修者である金沢優治氏(以下、金沢氏)に伺いました。
睡眠はアンチエイジング効果があるって本当?
"肌のお手入れ"と"睡眠"にはどのような関係があるのでしょうか? 「睡眠はただ日中活動して疲れた身体を回復させるだけではありません。睡眠は私たちの体のメンテナンスをしてくれているのです」と金沢氏は話します。
脳の老廃物を流す、記憶を整理・定着させる、免疫力を回復するなど、睡眠には人間が毎日健やかに生きるために欠かせない役割があります。その役割のひとつが「肌のアンチエイジング効果」。しかし睡眠自体がアンチエイジングの働きを直接的に担っている訳ではありません。肌のアンチエイジングを行ってくれるのは、睡眠時に分泌される「成長ホルモン」です。
「寝る子はよく育つ」と言う言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは睡眠時における成長ホルモンが体や肌の傷んだ細胞を修復し、骨や筋肉の成長を促すためです。肌が傷んだ状態では肌を守る細胞が崩れているため、外からの刺激への抵抗力が弱くなります。その結果、肌あれ・しみ・そばかすの原因となってしまうのです。
ノンレム睡眠時に多量の成長ホルモンが分泌される
「ノンレム睡眠」とは脳の覚醒状態から程遠い、深い眠りの状態を言います。ノンレム睡眠にも浅いノンレム睡眠と深いノンレム睡眠の二種類があり、深いノンレム睡眠に近づくほど、深い眠りを示します。一方覚醒に近い浅い眠りの状態を「レム睡眠」と言います。睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の繰り返しであり、起床時が近づくにつれて「レム睡眠」の出現率が多くなり、脳が覚醒する準備が整って目覚めます。
成長ホルモンは睡眠時だけ分泌されているのでしょうか? いいえ、実は睡眠時だけでなく、常時分泌されています。ただ、1日の中でも特に多量に分泌されるのが「就寝直後」なのです(※[1][2] )。また、眠りの深さと成長ホルモンの分泌量が比例の関係であることも明らかになっています。つまり、「就寝直後に深い眠りを実現できるほど成長ホルモンが多量分泌される」ということが睡眠研究で明らかになっているのです。
肌のエイジングケアには成長ホルモンの分泌が欠かせません。そして成長ホルモンを分泌させるには、就寝直後に訪れるノンレム睡眠時に深く眠ることが大切なのです。
睡眠によるアンチエイジング効果の注意すべき点
「このようなお話をすると、就寝直後の深いノンレム睡眠のみをすればいいと誤解される方がいます」と金沢氏は話します。就寝直後の深いノンレム睡眠は就寝から約3時間の間に行われます。そのためその後の睡眠は必要ないのではと思う方がいますが、それは間違い。就寝直後のノンレム睡眠時だけ寝ればいいという単純なものではありません。
あくまでもこの時間は「成長ホルモンが多く分泌される」時間。肌のアンチエイジングは、成長ホルモンが分泌されるだけでは完了しません。分泌された成長ホルモンによる細胞分裂が行われ、肌が修復されることで、肌のアンチエイジングが行われたことになるのです。
細胞分裂が行われ肌が修復されるまでに要する時間は2時間〜数時間。(※[3])つまり成長ホルモンが分泌される3時間と、その後に2時間〜数時間、細胞分裂による肌再生の睡眠時間を取ることでようやく睡眠による「肌のアンチエイジング効果」が発揮される、ということになります。
ぜひ皆さんも、美しいお肌のためにも睡眠の質と量を意識してみてください。
参考文献
[1]TakahashiY, Kipnis DM, Daughaday WH: Growth hormonesecreation during sleep. J Clin Invest. 47(9): 2079-2090, 1968.
[2]Sassin JF, Parker DC, Mace JW, Goblin RW, Johnson LC, Rossman.LG: Human grouth hormon release: relation to slow-wave sleep andsleep-walking cycles. Sience. 165(892): this 513-515, 1969.__
[3]井上勝一、津田真寿美、飯塚雅由(1997):細胞周期と DNA インデックス:臨床検査 vol41 no10