ライバルを褒めよ! デキるセールスマンに学ぶ口説きテク/大人の男と女のつきあい方

pixta_21798188_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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デキるセールスマンに学ぶ「口説きのツボ」

私は電車移動の愛好者である。
自宅の最寄りの私鉄駅からターミナル駅に20分以内で出られるし、電車で移動するほうが時間も読めていい。何よりも人間観察の場として最高である。
だが、私自身、運転はしないもののクルマは所有している。20年ほど前にクルマ好きの息子の意見をとり人れて、はじめて購入した。以来、現在のクルマは四台目になる。息子も仕事が忙しくなり、なかなか乗る機会もなくなったので、いっそのこと、クルマを持つのをやめようとしたのだが、数年前にある外車ディーラーの営業マンと出会い、思わず、また買ってしまったのだ。

「このクルマはいいですよね。燃費もいいし、足まわりもいいんですよ」

そのセールスマンがわが家を訪れたとき、当時ガレージに置いてあったクルマを見るなり、開ロ一番そういったのだ。だが、そのクルマは自社のものではない。彼はまず、そのクルマがいかに優れているか、その特長をわかりやすく説明しはじめたのである。聞いていると、門外漢の私も何となくわかったような気になる。ライバル社の車種の「出力」馬力」など、いわゆるスペックを頭に叩き込んでいるようだった。

自分の成績アップに興味がないのか、人物が奥ゆかしいのか、彼の話を聞いていると、あまりにわが家のクルマを褒めるので気分は悪くないが、こちらは面食らう。本当に自社のクルマを売る気があるのかどうか、とさえ思いはじめてしまった。
「そうはいっても、燃費も悪くなっているし」「スタイルも古くさいよね」「車検代もかなりかかるし」......。聞かれもしないのに、次第にこちらがいまのクルマの欠点をあげるようになっていた。彼はといえば、そんなこちらのグチには決して同調はせずに、ただ黙って耳を傾けるだけ。

そして、他社のクルマを徹底的に褒めたあとで、自社のクルマの説明を始めたのだ。だが、他社のクルマを褒めるときの熱さは影をひそめ、もの静かに噛んで含めるような口調になっていた。抑えたトーンだが、かえって説得力が感じられる。その調子に合わせて、こちらはいろいろと質問する。立て板に水とばかりに即座に答える。

「実は、私も乗っています」

ひととおり、自分のすすめるクルマの説明を終えて、最後に彼はそういった。まさに、とどめのようなひと言である。
私も息子も、すでに買うことを決心していた。
まんまと彼の術中にはまってしまったのである。後日、売買契約書にサインする段になって「やられたな」とは思ったが、スポーツにたとえるなら「敗戦のあとの爽快感」のようなものを、息子ともども私は感じていた。そのセールスマン、さしてハンサムではなかったが「コイツはモテるな」と、そのときなぜか唐突に思った。彼は人の口説き方のツボを見事に心得ているのである。

彼の手法は、そっくり恋愛にも通じる。
「オレは〇〇社の人間である」「親父は××社の役員である」「ゴルフはシングルである」に始まり「アイツは仕事ができない」「アイツは三流大学出だ」......。

口説き下手な人間は、クルマにたとえるなら自分のスペックばかりを話したがる。そして他社のクルマ=恋のライバルの欠点をあげる。口説き上手な人間は、自分のことは最低限しか話さない。質問されたときだけ控えめに話す。そうして、自分への興味を熟成させていくのだ。間違っても、ライバル批判はしない。

意中の人の心をつかむためには、男でも女でも、人それぞれに多かれ少なかれ策を弄(ろう)するが、もっとも逆効果なのが、誇大でいきすぎた自己アピールとライバルヘの中傷である。口説き下手な人間はそのことがわかっていない。相手の心を射止めるために大切なのは、奥ゆかしさを演じ切る度量なのである。
恋のライバルがどんなにイヤな奴だと内心では思っていても、決して口には出さないことだ。褒めて、褒めて、褒めまくること。自分に多少でも気があれば、業を煮やした当の相手がライバルヘの批判を始めることさえある。そうなれば、勝利は間近である。

件(くだん)のセールスマンは、この呼吸を見事に身につけていたのである。
私と息子に購入を決意させてしまったセールスマンの口説きテクを、傍(はた)で聞いていた妻がいったものだ。

「あの人がすすめるのなら、間違いないわ」
モテる人間は、当事者以外の人間の心までつかんでしまうようだ。

 

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川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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