40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。
本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?
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「"つきあってください"で始まる関係なんて!」
読者から興味深い相談メールをもらった。二七歳の会社員の方からのものである。その内容をご紹介しよう。
「......〈中略〉好きな女性がいます。二人で二回だけクラシックのコンサートに行って食事をしたことはありますが、『好きです。つきあってください』と、どうしても告白できません。どんな言い方で告白すればいいのか、ご教授をお願いいたします」
拙書を愛読していただいている方に対して申し訳ないのだが、正直なところ、「なぜ?」と驚いた。
テレビなどのバラエティー番組で、高校生をはじめ若い男女が意中の異性に"コクる"という趣向のものを見たことがある。クラスメートや仲間たちが見ている前で、直立不動のまま、まるでスポーツ大会の選手宣誓のように「〇〇さん、僕とつきあってください!」などと叫び、頭を下げて相手に右手を差し出す。
オーケーならば"コクられた"相手は、差し出された手を握り返す。ノーならば「ごめんなさい。」断られた告白者は、その場から去っていくという内容の番組だ。
これなどは視聴者のウケを狙った筋書きだから、目くじらを立てるほどのこともないが、相談メールの男性の場合、ちょっとおかしいと思う。
そもそも「つきあってください」と"コクる"必要などあるのだろうか。私にいわせれば「もう、すでにつきあいは始まっているではないか」である。
彼はすでに二人で、二度もコンサートに行って食事をしている仲だ。「カン違い女」でもないかぎり、その気もない男の誘いは二度も受け入れない。そんな関係であるにもかかわらず、なぜ、あえてかしこまって「つきあってくれ」と口に出さなければならないのだろうか。
要するにこれは、相談者も含めた最近の若者たちの自信のなさ、不安の表れなのだ。私の理解では、つきあいというのはふつう、二人で会ったり、話をしたり、映画を見たり、あるいはホテルに行ったりする行為をひとくくりにしていう。だが、彼らの場合はちょっと違うようだ。
彼らにはそうした実態よりも、相手からもらう「つきあいます」というお愚つきが優先されるのだろう。そのお墨つきをもらえば、安心してまわりに「オレの女だ」「私の彼よ」といえるということなのだろう。そうしなければ、そこから次のステップに進むことができないのだろう。何とも情けない。
「これからは手をつないでも怒らないんだね」「キスしても拒否しないんだね」
「ホテルに誘っても逃げ出さないね」......。彼らにとっては、相手からもらう「つきあう」という言葉は関係を深める保証書なのだ。
まずはお茶に誘って語らい、脈ありと判断したら今度は食事やお酒の席に誘い、相手の反応を見ながら次のステップに進むという、ある種、微妙な男女の駆け引きを戦い抜いてきた私にとっては、どうにも合点がいかない。
そもそも「つきあってください」的なフレーズを使わなければならないシチュエーションはかぎられているはずだ。たとえば、男子高校生が電車通学の途中で見かける名前も知らない女子高生に恋い焦がれ、意を決してアプローチするとか、ビジネス街の隣のビルのOLにひと目惚れしてしまい、ほかに気持ちを伝える術(すべ)がないまま、機会を得て告白するようなケースならわかる。いわば「唐突なメッセージ」を伝えるときだけの言葉だろう。
つきあってくれなどとひと言もいわずに、二人だけの時間をつくり、相手の表情や言葉などから徐々に距離を縮めていくのが、恋愛の進め方ではないか。ちょっと不安を感じながらも肩を抱き寄せ、キスを受け入れてもらい、最後の一線へと進んでいく。そんなプロセスが愉しいのだ。
自分では絶対に最後までいけると思っていても、つきあいの途中でその仮説が見事に覆され、傷ついて意気消沈することもあるにはあるが、その挫折を克服するのもまた男の人生だ。傷つくことを恐れていたら、恋はできない。私にいわせれば「つきあってください」から始める恋など、格好悪い。
「この前、ある会社のOLが、かわいがっていた後輩の男性から『〇〇さん、僕とつきあってください』と真顔で告白されたんだそうです。彼女はその場で笑ってしまったそうで、その男性はショックのあまり二日も会社を休んだらしいのです。彼、ロクに恋愛をしたことがなかったんでしょうね。かわいそうだけど......」
私と意見を同じにする年下の友人が、そんな話をしてくれた。
この話には後日談がある。実は彼女にはすでに彼氏がいて、その年下の友人こそ彼氏だったのだ。ある日、ホテルで二人だけの愉しい時間を過ごして部屋を出るとき、この話を思い出した彼が「〇〇さん、僕とつきあってください」といったそうだ。彼女は「はい」とうつむき加減に答えたあと、絶妙の呼吸で演じたこの寸劇に二人で大笑いしたそうである。
恋で傷つくのはたしかにつらいことだが、傷つく前に保険をかけておくようなアプローチでは、せっかくの恋も味がなくなるではないか。
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1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!