いつかくる別れ。旅立ちの流儀、残り方の礼儀/大人の男と女のつきあい方

pixta_36644461_S.jpg40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。

本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?

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前の記事「男と女を超えた関係。離婚は幸せの入り口でもある/大人の男と女のつきあい方(49)」はこちら。

 

旅立ちの流儀、残り方の礼儀

最愛の人が亡くなれば悲しい。どんなに長生きしたとしても、「もう一年、生きていてくれれば」「もっといろんなところへ二人で旅をしたかった」「伝えておきたいことがあった」と悔恨の思いが次から次へとわき上がってくる。それが、天寿を全うしたといわれる90歳、95歳という年齢であっても、パートナーにとっては「完全に納得できる死」などない。
だが、亡くなった側にしてみれば、「この年まで生きれば、まあいいか」と納得の境地で旅立っていける人もいるかもしれない。

ところが、平均寿命にも達せず、妻や育ち盛りの子どもを残して志半ばで死ぬとなれば、その悔しさは計り知れないものだろう。ましてや、残された妻や子どもの悔しさ、悲しさはそれをはるかに超えたものとなる。

親族の法事で墓地を訪れたときのこと。その墓地は公営である。墓石が一律にプレート状のものと定められていて、地面は生えそろった美しい芝生に覆われてる。アメリカ映画などで見かける墓地とよく似たたたずまいだ。そこで、思いがけない風景が私の視界に飛び込んできた。

プレート状の墓石の前にシートを敷き、30代後半とおぽしき婦人がさめざめと泣いているのである。傍らには少女が二人。10歳と5歳くらい。姉妹であろう。二人の少女は涙をこらえながら、健気(けなげ)にも悲しみにくれる母の肩や背中をさすりながら慰めているようだ。

納骨はすんだものの、事実を受け止められない。墓地に赴いて亡き夫に語りかけながら、納得できない夫の死を悲しんでいるのだろう。
胸が痛くなるほどの悲しいシーンだった。

だが、この家族に同情する一方で、冷酷な思いも浮かんでいた。悲しみにくれているだけでは、亡くなった夫は喜ばない、そして子どもたちには未来がある――。とはいえ、そのときの私はなす術もなく、その場を立ち去ったのだが、この親子に伝えてあげたいメッセージを見つけた。田渕久美子さんのインタビューをまとめたものである。

田渕さんといえば、宮崎あおいさんの主演で高視聴率を記録したNHK大河ドラマ『篤姫」や『江』の脚本家である。彼女の最愛の人との出会いと永遠の別れを、『女性自身』の人気連載「シリーズ人間」が伝えていた(2009年10月13日号)

彼女は2008年秋、『篤姫』の放映中に最愛の夫・岡島瑞徳(ずいとく)さんをガンで亡くした。彼女が岡島さんと出会ったのは、以前の夫と二人の子どもを連れて離婚したあとのこと。当時、彼は既婚者だったが、運命的な出会いをする。
「会った瞬間『なんで今まで会っていなかったの』というぐらいの衝撃を受けました」

その後、二人は結婚する。ところが、二年後に夫のガンが見つかる。医師の診断では末期の直腸ガン。夫は積極的な延命治療を望まず、発見から一カ月ほどでこの世を去った。

彼女にとっては受け入れがたい死だったはずだ。しかし、田渕さんは夫の死後数力月で二つの答えを見つける。
「ひとつは『彼の死をいつまでも悲しんでいるのは自己愛にすぎない』ということ。彼は、あの痛み、苦しみから自由になって、今、本当に静かな世界で生きてる。それをいつまでも悲しんでいる私は、自己愛の塊だと気づいたんです。

ふたつ目は『夫の死は、私の生まれて初めての大失恋だった』と、思えたこと。これまで私は、人を失うことが何も怖くなかった。相手が望んで去っていくなら追う必要はない、と。だから、失恋した以上、岡島を追うのはやめよう、と思ったんです」

最愛の伴侶を失う悲しみは、たとえようのないほど深いものだろう。それを「失恋」と位置づけて、ひとまず悲しみを封印する田渕さんの生き方はたくましい。

愛し合っている男女は互いに、よく「私より先に死なないで」などという。お互いに心の底から慈しみ合えるパートナーにめぐり合えるのは幸福だ。だが、いつかは別れがやってくる。

好き合った男女が結婚して、子どもをつくり、離婚もしないで長年寄り添って生活していても、いつかは必ず別れがくる。人間、生まれてきたときも一人なら死ぬときも一人。だが、そんなとき相手にみとってもらって死へと旅立つのが、やはり最高の幸せではないだろうか。

人生、いつ別れがくるかはわからない。先立つ側は、残る人間の悲しみや嘆きを決して喜びはしない。最愛のパートナーとは、いまのうちから別れ方、残り方の流儀を決めておいたほうがいいのかもしれない。

 

川北義則(かわきた・よしのり)
1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。

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『大人の「男と女」のつきあい方』
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!

 
この記事は書籍『大人の「男と女」のつきあい方』からの抜粋です

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