普段、何気なく利用しているエアコンだが、よくよく考えると不思議がいっぱいである。電熱器がないのにどうして暖房ができるのだろう。また、カタログには1キロワットの電気代で5キロワットの冷暖房ができるなどと書かれている。消費電力よりも冷暖房の能力のほうが大きいのだ。
この秘密を解くために、まずエアコンが部屋を冷やすしくみを見てみたい。この原理はいたって簡単。水を肌に塗り、フッと息を吹きかけると清涼感が得られるのと同様である。水が液体から気体に変化するときに気化熱を奪い、周囲の温度を下げるという原理を用いているのだ。エアコンでこの水の働きをするものを冷媒という。
では、実際に冷やすしくみを見てみよう。エアコンは圧縮器(すなわちポンプ)と二つの熱交換器からできている。一方を凝縮器、他を蒸発器というが、しくみは同一である。冷房の際、室内機の中の「蒸発器」で冷媒は蒸発して気化熱を奪い室内を冷やす。気体となった冷媒はポンプの力で「凝縮器」に運ばれ、室内で奪った熱を放出して液体になる。この繰り返しが「冷房」である。
注目すべきは、ポンプは室内の熱を室外に運ぶだけ、ということだ。運ぶだけなら大きな電力は不要である。こうして、消費電力以上に、部屋の空気は冷やされることになる。
次は暖房のしくみを考えてみよう。先ほどの冷房時のエアコンを逆に回してみる。すると、冷房時とは逆に、ポンプは室外の熱を室内に運ぶことになる。これが暖房のしくみである。電熱器など不要なのだ。冷房時と同様、熱を運ぶだけなので、消費電力以上に暖房効果が得られることになる。
以上のように、ポンプは冷媒を介して室内から室外へ、また室外から室内へ熱を運ぶ役割をする。これは水槽の水をポンプで循環させるのに似ている。そこで、このしくみをヒートポンプと呼ぶ。このヒートポンプのおかげで、エアコンはたいへん効率のいい省エネ空調機になったのである。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。