【風、薫る】見上愛×上坂樹里、新朝ドラ開幕! 第1週で描かれた「正しさ」への問いと、運命のバディ誕生の予感

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「"正しさ"への問い」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【風、薫る】見上愛×上坂樹里、新朝ドラ開幕! 第1週で描かれた「正しさ」への問いと、運命のバディ誕生の予感 pixta_85782749_M.jpg

見上愛、上坂樹里がW主人公を務める連続テレビ小説『風、薫る』(NHK総合)が3月30日にスタートした。田中ひかる著『明治のナイチンゲール大関和物語』(中央公論新社)を原案とするオリジナル作品で、激動の明治に看護の世界へ飛び込んだ二人の"トレインドナース"の冒険物語だ。

そもそも朝ドラでは少数派の「複数主人公」モノの中でも、双子主人公の『ふたりっ子』『だんだん』、母娘が主人公の『京、ふたり』、3世代ヒロインの『カムカムエヴリバディ』などはあったが、血縁関係にない女性同士のバディが主人公というのは今作が初めてのこと。本作がいかに意欲的な試みであるかが、まず伝わってくる。

第1週「翼と刀」は、二人がまだ出会う前の話から始まる。栃木県那須で元家老の長女として育った一ノ瀬りん(見上愛)と、教会を転々として孤児として育った大家直美(上坂樹里)。地理的にも境遇的にも対照的な二人の日常が交互に描かれていく。

元家老の家に生まれながら帰農した一ノ瀬家で、りんは父・信右衛門(北村一輝)と母・美津(水野美紀)、妹・安(早坂美海)と4人で幸せに暮らしていた。そんな中、りんに縁談がくる。りんは婿養子をとって家を継ぐものと思っていたが、家を継ぐ必要はないと言われ、縁談には安が自ら名乗りをあげ、幼馴染・虎太郎(小林虎之介)との恋に進めるのかとも思えた矢先――そこから一気に波乱万丈の展開へと転じる。

村に「コロリ」(コレラ)が流行し、虎太郎の母が感染。感染者の家には「コレラ」と書いた札が貼られ村八分にされるという構図に、コロナ禍を重ね合わせた視聴者も多かっただろう。当時、感染症の看病には「身分が低い」と差別されていた人々があてられたという事実にも、あらためて愕然とさせられる。りんが虎太郎の震える手を握ろうとするが、一緒にいるところを見られれば村八分にされると諫められ、そのまま別れる。二人の恋はコレラによってあっけなく引き裂かれる格好になった。

さらに信右衛門自身もコレラで倒れてしまう。感染拡大を防ぐため一人で納屋にこもる信右衛門に、りんは格子戸越しに折り鶴を渡し、歌を歌って励まし続ける。しかしやがて納屋からの返答が途絶え、りんが戸をこじ開けると、信右衛門は息を引き取っていた。「また間違えた。また間違えた」と父の手を握り泣き崩れるりん。なんとここまでの展開が、木曜の第4話までわずか4日で描かれた。

父を失い生活が苦しくなると、第5話では今度はりんに縁談が舞い込む。相手は18歳も年上の運送業を営む男の後妻話で、相手にはりんと同い年の息子もいる。美津が「年齢も家格も不釣り合い」と憤慨する中、りんはこの縁談を受け入れることを自ら決意する。婿養子をとって家を継ぐことからも解放され、虎太郎との恋の予感もあったはずが、1週間でここまで追い詰められてしまう展開の速さに、視聴者も息をのんだことだろう。

りんの父・信右衛門を演じる北村一輝といえば、『スカーレット』で演じたクズ感の強い父を思い出す人も多いだろうが、本作では一転、声色も喋り方もすぐには北村一輝だと気づかないほど印象が異なる。

時代は前作『ばけばけ』と同時期だが、『ばけばけ』ではトキ(髙石あかり)の父・松野司之介(岡部たかし)が武士の時代が終わったことで、呆然と立ち尽くしていたのに対して、本作の信右衛門は、維新前に自ら家老職を辞して帰農し、農業に従事しながら娘たちに論語など勉強を教える日々を送っている。同じ「侍の時代の終わり」に生きながら、その向き合い方はまるで対照的だ。

りんが幾度も口にする「また間違えた」の対になるように、信右衛門自身も「どうしたらよかったのか正直わからん」「"正しい"とは難しいのう」と"正しさ"について苦悩している。そして、りんの生きる道を示したのが、そんな信右衛門の言葉だった。

「学問を怠っては飛んでいけぬ。学ぶことはときに世を渡る翼となり、身を守る刀になる」「己を守るのは、己の頭と心、そして体だけだ」

すぐに思ったことを口にしてしまう素直なりんが「間違えた」とすぐに言うのも、こうした父の教えが原点にあり、常に頭と心、体を使って"考える"人であるからだ。過ちに気づき改めるトライアンドエラーの試行錯誤の数々こそが、後にトレインドナースとして生かされていくのだろうと予感させる。

一方、東京の直美は、マッチ工場での仕事で失敗が続き少ない給金に苦しんでいる。東京に出かけていた美津と安がスリに遭った際、スリをつかまえてくれたのが直美だったが、「スリなら金持ちから盗めってんだよ」と言い、美津に「金持ちから盗めというのも間違いです!」と諫められる。

そんな直美は、4年前から自分を引き取り見守ってきた牧師・吉江善作(原田泰造)から伝道者にならないかと誘われると、きっぱり断る。「"正しい人"が嫌いなんです。"正しい"で生きられる幸せな人が嫌い」と言い、そもそも自分は嫌いなものばかりーー家柄の良い人も、良い人も、何より自分もーーと言うのだ。

「たくさん間違えるりん」と「"正しさ"を拒絶する直美」。対照的に見えるこの二人が、実は同じ問いを別の方向から抱えているのだと気づく。身寄りがなく誰にも頼らずしたたかに生きてきた直美と、まだ出会っていないりんを結び付ける要素に、"正しさ"を問うた信右衛門の遺した教えと、"正しく"あろうとする美津の姿があるのは、面白い構図である。

そして第5話では、まだ出会っていない二人を結びつける存在として"鹿鳴館の華"・大山捨松(多部未華子)が登場する。第2話で美津・安がスリに遭った場面で先んじて直美と接触していたことも含め、りんと直美の運命の糸はすでに紡がれ始めていた。なるべくしてなるバディであり、その導きはすでに始まっていたーーそう思うと、第2週以降の展開がいっそう楽しみになる第1週だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

PAGE TOP