毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「脚本家・ふじきみつ彦が描いた『愛』」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】うらめしい話に命を吹き込むトキ(髙石あかり)の「ココロ」。錦織(吉沢亮)不在で進む夫婦の関係
※本記事にはネタバレが含まれています。

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第22週「アタラシ、ノ、ジンセイ。」が放送された。
なんでもない日常を丁寧に描いてきた本作だからこそ、今週はこれまでの描写の積み重ねがすでに「共通認識」となり、視聴者のほうが先に気づいたり、もどかしくなったり、嬉しくなったりする展開となった。
トキ(髙石)は英語の勉強を再開するが、すぐに眠くなり、集中できない。朝ドラでは稀有な描写だけど、この眠気ってつまり......ですよね? しかしフミ(池脇千鶴)と司之介(岡部たかし)は、トキが眠気を訴えたりフラついたり、食欲がなかったりしても、気づく気配がない。
そんな中、トキはロバート(ジョー・トレメイン)の妻・ラン(蓮佛美沙子)から英語の勉強法を教えてもらう。それは習った英語の発音をノートに記していくというものだ。
一方、ヘブンのもとにイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)から手紙が届く。ヘブンの『日本滞在記』が好評のため、次はフィリピン滞在記を書かないかという依頼が来ているという。報酬の他、渡航費と2年分の滞在費も出ると言う好条件だ。ヘブンがロバートに相談すると、ロバートはフィリピンに行くべきだと即答。ロバートはヘブンに、日本にいてももう書くものを見つけられないのではないかと鋭い指摘をする。
ヘブンは松江時代から教え子達にしてきたように、自分の悩みや懸案事項――今回は「フィリピン」という単語を例文に盛り込み、トキに英語を教えるが、トキはうまく発音できない。にもかかわらず、ヘブンが「I want to be with you」と言うと、「アイウォン トゥービー ウィジュー」と、そのフレーズだけなぜか滑らかに発音する。
ヘブンの気持ちがフィリピンに向かう一方、トキの英語はなかなか上達せず、ヘブンはいったん英語の勉強を終わりにしようと言う。トキがランを訪ね、それを話すと、ランはそれでも良いのではないかと言い、こんな驚きの話をする。
「聞いたわよ、旦那様、フィリピンで暮らして滞在記書くらしいじゃない?」
西洋人はみんな日本を去るときには妻と別れて一人で去るのだとランは言うが、何も知らなかったトキはパニックになってしまう。
帰り道、トキがふらついて歩けなくなったところに、丈(杉田雷麟)と正木(日高由起刀)が通りかかり、病院へ行くことに。そこでトキの妊娠が発覚。トキは喜び、すぐに不安の入り混じる表情を浮かべる。
帰宅したトキが病気じゃなかったと伝えると、そこで初めてフミは察し、「もしかしたらなんだけど......あげなんだない?」と尋ねる。「やっぱり......そげ?」「そげ」「ホントに?」「ホントにそげ」
「あげ」「そげ」だけで通じる家族ならではの会話を経て、フミは喜びの声をあげ、トキを抱きしめる。そこに司之介、丈と正木、女中・クマ(夏目透羽)も集まってきて、トキが懐妊を伝えると、司之介は一瞬泣きそうな顔をし、飲み込み、決壊したように涙を見せて「やった! ようやった!」と歓喜し、みんなで祝福。しかし、トキはヘブンにはまだ言わないでおこうと思っていると話す。
トキは、ヘブンにフィリピン滞在記の話が来ていて、フィリピンに一人で行くかもしれないこと、そうなると日本に戻ってこないかもしれないことを明かす。司之介はみんなで引き止めようと言うが、トキは言う。
「だけん、言えんの。引き止めたいわね、私も。一緒におりたいわね、ずっと。でも、ヘブンさん、"書く人"になりたい人だけん。それを私は止めることはできん」
ああ、トキの唯一滑らかな英語「I want to be with you」はここにつながるのか......。
トキは妊娠について、もう少し考えてからヘブンに言うので誰も言わないで待っていてほしい、とみんなに伝える。トキはこういう不安なとき、しんどいとき、いつでも笑顔で、だからこそ余計にうらめしい。まるで晴れた空から不意に雨粒が零れ落ちる天気雨のような髙石あかりの表現が、この作品のテイストを終始支えている。
一方、ヘブンも決心できず、ロバートを訪ねると、そこにランが現れ、トキにフィリピン滞在記のことを話してしまったと打ち明け、詫びる。
フィリピンには一人で行くか、諦めるかーーヘブンの中で二択となった結論を出す時が迫っていた。トキはヘブンの気持ちを尊重し、引き止めないとフミに伝える。そこにヘブンが現れ、トキを散歩に誘う。
見晴らしの良い丘でヘブンはフィリピン行きについて触れ、「ワタシ、キメル、シマシタ」と話し出す。すると、トキは呼吸が浅くなり、胸を押さえ、泣きながら座り込んでしまう。ヘブンはトキをおぶって病院に行こうとするが、トキは慌てて制止。病院には行った、病ではなかったと言う。
「ドウイウコト?......」一瞬考え、ヘブンは尋ねる。
「アカチャン? アカンボウ?」
トキが小さくうなずくと、ヘブンは歓声をあげ、トキをおぶったままくるくる回り、大はしゃぎ。そして、妊娠のことをなぜ黙っていたのかと聞き、すぐに察し、トキに伝える。
「イカナイ。ニホン、イマス。ズットイマス」
「でも......」
「デモ、ナイ。ワタシ、パパサン、アナタ、ママサン、コドモ、カゾク、ズットニホンクラス、シマショウ」
ヘブンはこれまでも怪談を通じてトキに「アナタノコトバ、アナタノココロ、スバラシ」と伝えてきた。松江を離れる提案をしたときには、トキは最初は激しく抵抗し、夫婦喧嘩にも発展した。アメリカに行くかと聞いたときも「行きません。怖いですけん」と笑顔で即答していた。にもかかわらず、子どもができてなお、それを伝えず、夫の「書く人になる」思いを尊重しようとするトキの「アナタノココロ」こそ、ヘブンの創作活動にとって何よりの宝となるだろう。第一話の「ママサン」の呼称もここで登場する。
しかも、父に捨てられ、母を早くに亡くしたヘブンにとって「家族を持つこと」は特別な意味を持つ。そこで、ヘブンはトキに伝える。
「I want to be with you」
「アイウォン トゥービー ウィジュー」
トキはヘブンに抱きつき、笑い合う。トキの思いに回収されたかと思ったこのフレーズは、ここでヘブンから再び手渡され、夫婦間で響き合うとは。
日常描写や笑いの得意な脚本家だと思っていたふじきみつ彦は、実は恋愛の、愛のドラマの名手、ラブストーリーの達人のようではないか。
半年後、ヘブンがお百度参りをし、司之介と丈、正木が柱で「てっぽう」をして生まれてくる子の健康を願う中、トキはフミらに付き添われ、無事に男の子を出産する。
しかし、そこで正木は気づいてしまう。ヘブンとトキ、子どもの3人が同じ戸籍に入らないと、家族になれないのではないかという問題に。
にわかに浮かび上がった「戸籍問題」を機に、次週は久しぶりにヘブンが松江を訪れ、錦織(吉沢亮)を訪ねるようだ。錦織の病状は、そして戸籍問題はいかに。残り3週に重要な要素がまだまだ託されている。
文/田幸和歌子




