【ばけばけ】うらめしい話に命を吹き込むトキ(髙石あかり)の「ココロ」。錦織(吉沢亮)不在で進む夫婦の関係

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「トキの『ココロ』『カンガエ』」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】「何も起こらない」を描く難しさ。脚本家の"持ち味"を期待した今週、思い出される「スキップ週」

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ばけばけ】うらめしい話に命を吹き込むトキ(髙石あかり)の「ココロ」。錦織(吉沢亮)不在で進む夫婦の関係 pixta_128882532_M.jpg

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第21週「カク、ノ、ヒト。」が放送された。

何も起こらない物語から一転、今週はいきなり「うらめしい」「カイダン」「呪い」展開が到来。

「泥棒事件」を機に日本人の心の素晴らしさを知ったヘブン(トミー・バストウ)は、それを原稿として書き上げる。しかし、ホッとしたのもつかの間、ヘブンが英語教師を務める第五高等中学校がなくなるという噂が。理由は「文部省予算の削減」だと聞いたヘブンと同僚・ロバート(ジョー・トレメイン)は激しく批判する。

「教育に力を入れないでどうする!」
「日本の政治家は何を考えてる!」

令和ではつい先日、奨学金の金利が2.5%を超えたという報道があり、批判が噴出したばかりであるだけに、あまりにタイムリーな話題ではある。

ともあれヘブンは失業の危機に瀕したことをトキ(髙石)らに内緒にするが、新聞記事で知られてしまい、松野家に再び貧乏生活の危機が訪れる。しかし、そんな折、泥棒の話の原稿料として80円(120ドル! なんという円高時代!)が届く。

「ワタシ、キョウシ、ナイ。カクノヒト(書くの人)デス」と意気込むヘブンだが、松江時代よりも教師としての受け持ちの仕事が多く、次回作がなかなか進まない。

ここで浮かび上がるのが、ヘブンのリテラリーアシスタントを務めていた錦織(吉沢亮)の不在だ。トキは松野家と、書生の丈(杉田雷麟)・正木(日高由起刀)、女中・クマ(夏目透羽)に頼み、総動員で書店を訪ねるなど、ヘブンの執筆の題材探しに奔走する。

その道中、トキは幽霊のような暗い雰囲気をまとった女性・吉野イセ(芋生悠)と出会う。イセは、お地蔵さまに車引きと祈るとかなわない、噓つきは来世で蛇になるなどと、不吉な言い伝えを口にする。暗くおどろおどろしい画と、イセの放つ不幸オーラに、ゾクゾク・わくわくする。すると、トキは目を輝かせ、言い伝えを教えてくれとイセに懇願。そこに村上茂吉(緒方晋)という男が現れ、イセは呪われた女だから、離れたほうが良いと忠告する。

総動員で集めた本などは結局、ヘブンの創作意欲を掻き立てることができず、満を持して登場するのが、「言い伝えに詳しい人」――トキが連れてきたイセと、丈・正木が連れてきた村上だった。

そこで二人は交互に言い伝えを披露する。しかし、メモ片手に目を輝かせるヘブンに「ナゼ?」と聞かれ、本当に言い伝え通りになった人がいるか尋ねられると、両者ともに口ごもってしまう。あるいは、ヘブンの「シッテル!」で終了。言い伝えというのはそんなものだが、それでは原稿にならない。気まずそうにするイセにはもはや不幸オーラはない。

しかしそこで、トキが食い下がる。一番気になっていたのは、イセが呪われているという話だと。最初は抵抗しつつも、イセがゆっくり口を開く。そこで語られたのは小泉八雲の著作にもある「人形の墓」だ。ヘブンがのめり込んでいるときの「ツウヤク、イラナイ」が再び登場。そんな中、イセが語ったのは、あまりに悲しくうらめしい話だった。

イセは10歳の頃、両親と兄と4人暮らしだったが、父が病で急死し、ほどなく母も病で亡くなった。村には「1年のうちに一軒の家で二人死ぬと、三人目が死に、四人目から先は生き延びたとしても、呪われた一生を過ごす」という言い伝えがあるが、藁人形を入れた人形の墓を作れば、それが避けられるという言い伝えがあった。しかし、イセと兄は迷信だととりあわず、人形の墓を作らずにいたところ、兄も亡くなり、イセが慌てて作ったものの、すでに遅かったのか、大病にかかって生死をさまよい、借金に生活苦を経験し、頼る親戚にもお荷物扱いされ、呪われたと言われて生きてきたのだという。

予想を上回るうらめしい話に場が凍りつく中、役に立てなかったことを詫びて去るイセの座に、そのぬくもりが残るうちに、トキが座る。

人が座ったところに、ぬくもりが残るうちに座ると、その人の不幸せがうつるーートキはクマと村上からその言い伝えを聞きつつも、あえて座るのだった。
「キタキタキタ~!」と声をはりあげ、目を血走らせ、息を荒くし、頭痛を訴え、「大丈夫かわからんけど、楽しい~」と盛り上がる様に、かつて怪談に夢中になっていた様を思い出す。昔で言えばコックリさんや口裂け女に、今でいえば都市伝説に夢中になるようなオカルト好きならではの"奇行"に見える。しかし、トキはなおも目を血走らせつつ笑顔で言う。

「おイセさん、不幸せ私に乗り移ったけん、これからはきっとええことある。昔は私もええことなかった。だけど、今はええこといっぱいある。だからこれで......」

そこで初めてイセが笑い、礼を言うと、トキは気絶する。幼い頃からド貧乏で不幸せやうらめしさを誰よりよく知るトキだからこそ、そこからイセを救いたいと思う、トキらしい優しさだった。

イセはおそらく村人達から「呪われた女」と言われ続け、いつしか自分が自分にその呪いをかけてしまっていたのだろう。そんな呪いを知らずに接近してくるトキと、「ナゼ?」「ホントウニ?」攻めをグイグイしてくるヘブンによって、イセは呪いから解放され、気づけば「普通の人」になっている。これはある種の「異なる人」の持つパワーだ。そして、悲&怖オーラから、それが消えて「普通の人」になるイセは微笑ましいし、それを笑いに変換する芋生悠の芝居が効いている。

こうしてヘブンの次の原稿の題材が見つかったわけだが、ヘブンは痛感する。「トキサン、スバラシイ、ココロ」「アナタ、コトバ、アナタノカンガエ、ワタシ、ヒツヨウ。モットモットネガイマス」。これは第12週にトキの語る怪談を通じて2人が心の距離を一気に縮めたときのヘブンの言葉「アナタノハナシ、アナタノカンガエ、アナタノコトバ、スキデス」と呼応している。昔からいろいろな場所で、いろいろな人の口伝で広まってきた話に命を吹き込むのは、トキの「ココロ」「カンガエ」なのだ。

そして、そんなトキの背負う不幸せ・呪いを、ヘブンはブードゥー人形にうつす。思えば本作では第1話冒頭から松野家が丑の刻参りで藁人形に釘を打ち付けていたし、ブードゥー人形はヘブンクイズの景品として登場、後にヘブンとトキが"時の人"になると松江の人々の間でグッズとしてもてはやされ、ラシャメン騒動で捨てられ、こうして時と場所を経て、トキの呪いを背負ってくれる。いつでも人のいろいろな思いを背負い続ける存在なのだ。

以降、トキはヘブンの執筆のため、様々なネタ探しに奔走。ヘブンの提案と、ロバートと妻・ラン(蓮佛美沙子)との交流をきっかけに、英語の勉強を再開、着実に錦織に代わる「リテラリーアシスタント」になりつつある。しかし、その一方、今週ラストに眠気を訴えていたトキに、もしや妊娠?の予想も......。夫婦であり仕事の相棒でもある関係はどう進むのかも気になる展開だ。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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