【ばけばけ】トキ(髙石あかり)が恋心を自覚...? いっぽう描かれた切なすぎる「2つの失恋」

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「2つの失恋」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】どこまでも細かい脚本がすごい...トキ(髙石あかり)たちの距離に変化をもたらしたキーパーソン

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ばけばけ】トキ(髙石あかり)が恋心を自覚...? いっぽう描かれた切なすぎる「2つの失恋」 pixta_5316456_M.jpg

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第11週「ガンバレ、オジョウサマ。」が放送された。ヘブン(トミー・バストウ)とトキ(髙石)の距離に変化が生じた先週。しかし、ヘブンが呟いた「私はただの、通りすがりのただの異人です」という言葉が、トキの中では引っ掛かっていた。

ヘブンが松江で迎える初めての正月。トキに羽織袴を着せてもらい、新年の挨拶の仕方も教えてもらったヘブンは、上機嫌でご近所にも新年の挨拶回りをする。

"ラストサムライ"勘右衛門(小日向文世)にも「なかなか似合うちょるなあ、ペリーにしては」と褒められ、草履でなく靴が残念だと指摘されると、草履は痛くて履けない、「ザンネン、ゾーリ、ソーリー」と韻を踏んでみせるほどの日本語の上達ぶり&松江の人々への馴染みぶり。

だが、花田旅館の新年会で乾杯の音頭を任されると、「ショウガツ、タノシ。スバラシ」と称賛した後、こんな衝撃発言をする。

「デモ、サムイ。ツギ、フユ、ワタシ、マツエ、イナイ。ヨロシク」

一瞬その場が凍りついた後、冗談として受け流されていたが、トキがつぶやいた「やっぱりただの通りすがりなんですかね......」が錦織(吉沢亮)の耳に残っていた。

その一方、諦めず、ポジティブに、果敢に挑むのが、お嬢様のリヨ(北香那)だ。

次の冬はいないとヘブンが言ったことをトキから聞いても、「見てなさい。私がつなぎとめてみせます」と宣言。偶然を装って城山稲荷神社でヘブンを待ち伏せたり、ヘブンのために父・江藤(佐野史郎)に懇願して家にストーブを設置したりと、健気に、猛烈にアプローチ。ヘブンを快気祝いとして自宅にも招く。

借金のある松野家にとっても、ヘブンがいなくなることは、トキの失業=月給20円がなくなるという死活問題だ。そこで、勘右衛門と司之介(岡部たかし)はヘブンを松江につなぎとめるため、ヘブンに思いを寄せるリヨ(北香那)の恋を応援することに。トキもまた、複雑さを抱えつつ、リヨの恋を応援していたが、記者・梶谷(岩崎う大)から、西洋かぶれのリヨが日本古来の「お百度参り」までしていたこと、快気祝いの場で結婚を申し込む(プロポーズ)予定だという話を聞くと、居ても立っても居られず、サワ(円井わん)のもとに行く。手をすり合わせ、橋の向こうをぼんやり見るトキ。さすがに自分の中で大きくなっているヘブンの存在が、その思いがどんなものか、トキ自身にもうっすら見え始めてきたろうか。

一方その頃、リヨはヘブンを慕う思いを伝え、松江に残って夫婦になってくれと伝えていた。すると、ヘブンは突然のプロポーズに戸惑いつつも、リヨの真剣な思いに真摯に向き合うべく、初めて自分のことを話すのだった。

ギリシャで生まれたヘブンは幼くして両親と別れ、アイルランドの叔母に育てられた後、イギリス、フランスなど各地を転々とし、アメリカに渡った。そして、今は日本にいて、松江での暮らしも長くないと言い、「居場所を定められない私の宿命」と語る。

居場所を決めるのは「コワイ、デキナイ」、きっと悪いことが起こるというヘブンに、やってみなければわからないとリヨは食い下がるが、「ヤッタ、アリマシタ」としてヘブンが語ったのは、アメリカ・オハイオ州で新聞記者になったヘブンが黒人にルーツを持つマーサという女性と出会い、結婚したこと。しかし、違う人種との結婚は州法で禁じられていたため、結婚を理由に新聞社を解雇され、自暴自棄となったマーサは大家を剃刀で切りつけ、収監。マーサは自分を責め続け、二人は別れを決意したということ。

「人と深くかかわることをやめたんです。どの国でもどの街でも、ただの通りすがりの人間として生きていくことを決めた。恋人でも友人でも、誰とも深く関わらない」

リヨの一連の告白をリヨの父(佐野史郎)に通訳し、さらにヘブンの身の上話も全て通訳する錦織。なんとも気まずく、珍妙な立ち位置だが、ヘブンの固く閉ざされた心情、「通りすがりの人間」が意味するものを通訳するときの寂しげな錦織の表情が印象に残る。

リヨの家から帰宅したヘブンは、リヨから贈られたウグイス(本当はメジロ)を空に放つ。トキはリヨの恋が終わったことを悟るのだった。

その後、リヨがトキを訪ねてきた。たくさん協力してくれたお礼を伝え、「通りすがり」の意味がわかったと言うリヨは、トキがヘブンの過去を知らないことに気づくと、こう言う。


「大変よ。先生を射止めるのは」

恵まれた家庭の苦労知らずの自由なお嬢様に見えて、努力家で、礼儀正しく、素直で明るく、自分の気持ちに真っすぐで、なおかつ他者の気持ちにも敏感だったとは。しかも、失恋の恨み妬み嫉みなど微塵もない爽やかさ。リヨ、死角なしの好感度の高さではないか。

翌朝、ヘブンは叫び声をあげて飛び起きる。

「カラダ、ウゴク、ナイ! コワイ!」

その片言の日本語とジェスチャーから何が起きたのか察したトキは言う。「金縛りだがね!」

ウメ(野内まる)に幽霊役「う~ら~め~し~や~」をやってもらい、金縛りを「幽霊の入口」と考えるとトキが説明すると、ヘブンは自分の亡くなった母に会えるのではと言い、金縛りを楽しみにし始める。

一方、学校では神妙な面持ちで錦織がヘブンに問う。
「ヘブンさん、あなたにとって私はどういう存在なのでしょうか」
「スバラシ、ツウヤク。スバラシ、オセワガガリ。イツモタスカル」
「......わかりました」

なにせ錦織は年始の挨拶に訪れた際、より一層深いお付き合いをするため、今後学校以外では「ヘブンさん」と呼んでも良いかと尋ね、快諾され、「ヘブンさん」「ニシコオリサン」と呼び合う仲になったくらいだ。しかし、直後に「通りすがり」の言葉を知り、静かに傷つき、二人の関係性について言語化されてしまった。開いたと思った天岩戸が一瞬にして再び閉ざされた、いや、そもそも開いてなどいなかった寂しさを感じたのではないか。しかし、そんな錦織の落胆にヘブンは気づいていない。

そして翌朝、錦織はヘブンを迎えに来なかった。リヨよりもよほど深刻な失恋に見える。

ところで、正月早々、ヘブンが口にしていた、滞在記を完成させるために「アトヒトツ」必要なテーマ「ラストピース」が「怪談」であるのは間違いないが、それが描かれるのはいよいよ次週。金縛りにあったヘブンに「ええなぁ」と言うトキと、怖がっていたくせに、母に会える手段と考えて喜ぶヘブン。ある種似た者同士の風変わりな二人が「怪談」によって結び付く瞬間がいかに描かれるのか、期待が高まる。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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