【ばけばけ】どこまでも細かい脚本がすごい...トキ(髙石あかり)たちの距離に変化をもたらしたキーパーソン

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「どこまでも細かい脚本」について。あなたはどのように観ましたか?

【前回】予告されていた「スキップだけの回」がついに!"何も起こらない"展開が描いたもの

※本記事にはネタバレが含まれています。

【ばけばけ】どこまでも細かい脚本がすごい...トキ(髙石あかり)たちの距離に変化をもたらしたキーパーソン pixta_96706639_M.jpg

髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』第10週「トオリ、スガリ。」では、松江に冬が訪れた。

しかも、この冬は寒波によって特に寒く、ヘブンは布団を体に巻き付けつつ「サムイ」を連発し、定番フレーズ「ジゴク」を繰り返す。

そんな中、ヘブンの教え子・小谷(下川恭平)がやって来る。しかし、小谷はトキと話してばかり。小谷はトキの「顔」に一目惚れしてしまったのだ。そんな小谷はトキの家の周りをうろつき、サワ(円井わん)に遭遇、幼馴染のサワからトキの好きなモノを教えてもらう。サワはそんな小谷のことをトキの家族にペラペラ喋ったことで、家族は大盛り上がりに。

トキが怪談好きであると知り、自分も怪談を好きになろうと努める小谷だが、難航し、さらにサワにトキの好みをリサーチしていたところに、トキの怪談好きのルーツ・フミ(池脇千鶴)が現れた。フミは出雲の大社の神官の娘で、「神々や目に見えんものに詳しい」ことから、トキに怪談を聞かせてきたのだった。

そこで、優秀で将来有望とサワも保証する小谷を長屋に引き入れた松野家では、「跡取り候補」として小谷の面談状態に。勘右衛門(小日向文世)は相変わらず家の"格"にこだわり、小谷の家が元士族で松野家と同格と知るや、ますます気に入り、こうして本人不在のうちに外堀がどんどん埋められていく。

一方、ヘブンの中ではトキの存在が徐々に大きくなっていた。

リヨ(北香那)が琴の演奏を聴かせ、日本人だから日本文化を大切にしたいとドヤっても「スバラシ」に続く言葉は「シジミサンミタイ」。ヘブンは授業でも「サムライの娘を女中にして良かった。日本の文化に囲まれて幸せだ」という英語の例文を出すほど満たされている。実はトキはタエ(北川景子)から習っていた三味線や生け花、茶の湯の稽古を再開し、その腕前もあがっていたのだ。しかも、タエに「(三味線は)お聴かせするお相手がいてこそ自然とうまくなる」「どんなお相手に?」と聞かれる上達ぶりだ。

トキの中でもヘブンが単なる雇用主ではなくなっているようだが、リヨにはお花や茶の湯、三味線を「やめてくださらない?」「あながたやると私が目立たないでしょ!」「アンダースタン?」「プリーズ、プリーズ、プリーズ」と釘を刺される(心のままに動き、発言するリヨがいちいちチャーミング)。

また、トキは当初ヘブンの女中候補だったなみ(さとうほなみ)に「ベリーベリーハッピー」か尋ねられ、ギリギリなんとかやっていると答えると、気を遣わなくて良いと言われる。そこで、楽しいとは違うかもしれないが、面白い、距離が縮まっていると本音を話す。

そんな中、ヘブンが学校で倒れてしまう。付き添ってきた錦織(吉沢亮)はヘブンに優しい言葉をかける。ヘブンがやがて帰る事実を改めて聞いたときも、ヘブンが倒れたときも、暗い表情を見せる錦織。ヘブンとの距離が変化しているのは、トキだけでないようだ。

しかし、「ジゴク」を連発する元気もなくなったヘブンは、「もう駄目だ、もっといろんな国に行きたかったが、ここが臨終の地になるとは」と「病」に酔った弱気発言をする。

そこに小谷が見舞いにやって来て、錦織が帰ってからも居座るが、そんな小谷にトキは助かると言う。看病をしていると傳(堤真一)を看病していたときを思い出し、自分の看病が悪いから亡くなってしまったのではないかと思うと言うのだ。

そんなやり取りが聞こえたヘブンは襖の向こうで「ワタシ、シス......」と言う。そこから英語で呟き、小谷が訳してくれた言葉は「たとえ死んでも悲しまないで。私はただの、通りすがりのただの異人です」だった。

「通りすがり? ただの?」トキの顔が曇る。しかし、ヘブンはますます「病」に酔っており、そんなヘブンをよそに、小谷はヘブンが回復したらと、怪談の舞台にトキを誘う。それを快諾するトキ。すると、ヘブンは「ワタシ、ヤマイ。アナタ、ミマイ」と器用に日本語で韻を踏み、楽しくおしゃべりしているなんておかしいと指摘、小谷を「アバヨ、アバヨ!」と追い払う。これは日頃繰り返すシンプルな「ジゴク!」とは違う、もっと複雑な感情であることに、ヘブン自身気づいていない。

一方、トキの中では突き放された思いだったのだろう、ヘブンの「通りすがりのただの異人」発言が引っかかっていた。リヨはヘブンの見舞いに来て、湯たんぽを差し入れし、喜ばれるが、トキの浮かぬ表情に気づき「お疲れね」と労う。しかし、トキは疲れではないと言い、説明する。

「ヘブン先生は、"通りすがり"だそうで。うまく言えんのですが、それが少々......」トキの心の晴れ模様は、本人よりもタエやなみ、リヨなど周囲のほうが気づいている。人の思いというのは、案外そんなものだ。

トキの懸命の看病の甲斐あり、ヘブンが回復した頃、松江に訪れていた大寒波も去る。食欲も増進するヘブン。錦織はヘブンの復活を心から喜び、ヘブンにハグし、トキに看病の礼を言う。すると、元気になったヘブンは、気になっていたらしいこと――小谷とトキが何の話をしていたのかを問う。そして、トキがお出かけの誘いを受けたと聞くと「......ナルホド、OK」。

そのそっけない態度を見たトキは「しじみで言ったら、貝殻が閉じたような気がした」と表現し、「私はただの女中ですが」と付け加える。

相手の何気ない一言や他者とのやり取りが気になったり、勝手に距離を感じて突き放されたように感じたり、寂しくなったりする二人の間には、確かに恋の芽生えが見える。

そして、トキと小谷のランデブー当日。小谷が案内したのは、なんと清光院だ。トキにとっては傳と初めてランデブーした場所であり、悲しい別れを遂げた元夫・銀二郎(寛一郎)との思い出の場所でもある。しかし、それが心の傷になっているどころか、「取り残された悲しさや寂しさ」が実体験も経て、より深く理解できるようになっており、ますます大興奮。怪談の素人・小谷を積極的にガイドするが、小谷は「目に見えぬもの」を本気で信じるトキに引いてしまい、怪談を「時間の無駄」と言い、「ごめんなさい」と別れを告げる。始まる気配が微塵もないうちに、勝手にふられた形のトキ。

そんなトキのランデブーが気になっていたヘブンが、帰ってきたトキに「コタニ、タノシ......アリマシタカ」と尋ねると、トキは「ノー、ありませんでした」。すると、ヘブンは「シジミサン」と名を呼び、「ナンデモナイ......ナンデモナイ......キニシナイ」と言葉を飲み込む。対するトキは「何ですか? 気になりますけん」と嬉しそうな表情を浮かべる。

まさかこんなムズキュンを本作で見ることになるとは。第10週は、心なしかいつも以上に画面が暗かった。しかし、その分、際立ったのは、トキ(髙石)とヘブン(トミー・バストウ)の刻々と変化する心の晴れ模様と二人の距離感の変化だ。そして、寒波を抜け、春に向かおうとする松江で、一足先に二人の距離に変化をもたらした小谷の名は「春夫」。どこまでも細かい脚本と、役者の繊細な表現を照度を落とした画面の中でじっくり見せる演出に、今週も唸らされるばかりだ。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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