
『北国の暮らし 今を豊かに生きる家しごと庭しごと』 (Kuro/KADOKAWA)第1回【全10回】
登録者数39万人超のYouTubeチャンネル「Kuro―北国の暮らし」から生まれた書籍『北国の暮らし 今を豊かに生きる家しごと庭しごと』(KADOKAWA)。動画に無言で登場する、Kuroさんの67歳母と92歳祖母が、この本で初めてご自身の暮らしや秘訣について語っています。庭仕事に精を出し、日々の暮らしを慈しむ「始末のよい暮らし」は、まさに未来への種まき。北国の大地で培われた、穏やかで豊かな暮らしのヒントが詰まっています。日々の生活をより健やかに過ごすための知恵を、ぜひ本書から見つけてみませんか。
※本記事はKuroによる書籍『北国の暮らし 今を豊かに生きる家しごと庭しごと』から一部抜粋・編集しました。
主婦業空白の25年間を埋める今の日々
私は、北海道にある小さな町で生まれ育ちました。札幌の高校を卒業後は武蔵野美術短期大学(当時。2003年に廃止)に進学し、テキスタイルデザインを学びました。約3年間の東京暮らしを経て、生まれ育った町へ戻ってきて結婚。それから46年、ずっとここで暮らしています。
結婚してから16年間は専業主婦。働く夫を支える妻として、4人の子どもを育てる母親としての日々を過ごしていました。
第一子の長女の子育ては、初めてのことだけに、すべてに一生懸命でした。気に入った生地を買ってきては、ミシンを使って洋服を作り、絵本も毎晩寝かしつけのときに必ず読みました。『ぐりとぐら』は、何度読んだかわかりません。

子どもたちのために定期購読していた絵本を並べた本棚。
料理はもちろん、お菓子もずいぶん手作りしました。当時は、アメリカのお母さんが焼くようなカントリーケーキや焼き菓子が流行っていた時代。レシピが紹介されている雑誌や料理本を買って、料理番組を見て、いろいろなお菓子を片っぱしから作っていました。上手に焼けるようになるまで、スポンジケーキを繰り返し焼いたことは私自身も多分子どもたちも覚えています。わが家の定番アップルパイも、この時代に私オリジナルの味を完成させました。
気になると、突き詰めたくなる性格です。
だから、種をまき、植物苗を作り、販売する園芸店を始めたら、植物のこと、庭のことをもっと知りたくなりました。そして、植物や庭に関することで、私ができることに全力で取り組みたい気持ちが止まらなくなったのです。
仕事が忙しくなり、私ひとりでは家のことが十分にできないようになってからは、夫がいつの間にか洗濯、掃除、買いものをしてくれるようになり、それは今も続いています。
最低限の家事しかできなかった生活を25年続けましたが、還暦を迎えた頃、気力体力の限界を実感するようになります。
仕事を見直し、自分のための時間を持つのは今しかないと考え、ギアチェンジしたのが2020年。自分の庭や家のこと、持っている仕事にじっくり向き合うことを決めました。
仕事に没頭していた期間にできなくなったことはたくさんありました。だから、今、それを、自分のやりたいように思いっきりできるのが楽しくて仕方がありません。主婦業空白の25年間を埋めるように、庭づくりや家の中のことをやっていると、1日24時間があっという間です。
KuroのYouTubeチャンネル『北国の暮らし』では、私が家や庭で絶え間なく動き回っている様子が公開されていますが、カメラが回っていないときでも同じです。動画を視聴した方からも「いつ休んでいるのですか?」と質問コメントをいただきますが、あれもこれもやり
たいから仕方がない。仕事をしていても、家のことをしていても、結局アクティブに真剣に動く性分です。
お母さんは生産者。家のことも仕事も全部、研究・実験なんだよね 姉より
母は消費者ではなく、生産者です。子ども服を作ることに夢中になったときは、ミシンの前でずっと服を作っていたし、ケーキ作りに凝って、来る日も来る日もケーキを食べた時期もありました。母自身は主婦だと言いますが、私から見たら、主婦というのは仮の姿で、実際は実験大好きな職人です。「おしゃれな暮らしをしたい」なんてこれっぽっちも思ってなくて、「自分で作ってみたい」という好奇心だけで動いています。それは、園芸の仕事でも、料理を作ることでも、自宅の庭を作っていくことでも、同じ。「作ってみたい」「やってみたい」、それだけなんです。






