『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室』 (岡野あつ子/講談社)第3回【全5回】
離婚カウンセラーとしてこれまで約4万件もの離婚相談を受けてきた岡野あつ子さんによると、コロナ禍以降、離婚相談の件数が急増しているそうです。なかでも少なくないのは、夫婦関係のささいな不満が積み重なったことで限界に達した夫や妻による「熟年離婚」の相談。岡野さんの著書『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室』(講談社)は、夫婦間トラブルを回避するための実践的なノウハウがつまった1冊。今回はこの本の中から、年を重ねた夫婦間にこそ必要な「コミュニケーション」、「伝え方」についてのアドバイスをご紹介します。
※本記事は岡野あつ子著の書籍「なぜ『妻の一言』はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する『伝え方』教室」から一部抜粋・編集しました。
「お互い支え合う」夫婦はうまくいく
かつては「家庭は家庭、仕事は仕事」といった棲み分けのような考え方が当たり前でし
た。「仕事のことには口出ししてほしくない」と、家で仕事の話をしない人もたくさんいま
した。
でも、もうそういう時代は過ぎてしまった印象です。
米大リーグのロサンゼルス・ドジャースで活躍する大谷翔平選手が結婚しましたが、その際のコメントにあった「二人(一匹も)で力を合わせ支え合い」という言葉が話題になりました。
仕事でも家庭でも、夫婦お互いに支え合うという意識が求められているのです。
にもかかわらず、支え合うよりも、互いに正義を振りかざして戦ってしまう夫婦もいまだにしばしばあらわれます。
私のところに相談に来た方の中に、そういうケースがありました。
相談者は女性。夫は数十名規模の会社を経営しているそうです。家族を大事にしていたのですが、不運にも娘さんが交通事故に遭ってしまいました。
医師の診断は「すぐに脚を切断しなければ命に関わる」というもの。
すぐに家族で集まり、話し合いをしたのですが、夫が仕事を理由に来なかったのだそうです。
そこで、妻は愛想がつきてしまい、離婚を決意したそうです。
妻の気持ちもよくわかります。娘の脚を切断するかどうか、という一大事に、夫は仕事を優先したのですから。「冷淡な人だ」と思ってしまうのも無理はありません。
私もその話を最初に聞いたときは、「離婚するのも仕方がない」と思いました。
でも、その後、夫側の事情を聞くことになり、その見方を変えることになりました。
夫は娘のことが心配でたまらなかったそうです。命が危ないとわかっていても、愛する娘の脚を切断する決心がつかず、判断の場から逃げてしまったのだという話でした。
繰り返しになりますが、その人は数十名の社員を束ね、日ごろから重要な判断を下している人なのです。
でも父親としては一人の弱い人間でしかない。そんな夫の内面のことが妻にはいまひとつ
理解できていなかったのです。
このように、一見すると一方の主張が正しいことでも、よくよく聞いてみると、相手にも
そうせざるを得なかった原因があるものです。
自分個人の価値観で、単純に「これが正しい」と決めつけないほうが、夫婦関係はうまく
いきます。