食品や容器の内部に熱を発生させる、電子レンジとIH調理器/身のまわりのモノの技術(29)【連載】

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電子レンジもIH調理器も電気の力で煮炊きするという意味では同じだ。しかし、しくみからすると、まったくの別物である。

まず電子レンジを見てみよう。電子レンジのことを英語で「Microwaveoven」というが、その英語名が示す通り、電子レンジはマイクロ波を発生させて食品を加熱している。マイクロ波とは、波長が1〜10㎝くらいの電磁波をいう。電子レンジは波長4 ㎝くらいのマイクロ波を利用する。この電磁波は食品の中に入り、含まれる水の分子を回転させる性質がある。水分子同士が揺り動かされると、互いにこすれ合い、摩擦熱が生じる。その摩擦熱で食品が加熱されるのだ。

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次にIH調理器を見てみよう。IH炊飯器、IHクッキングヒーターなどさまざまな種類があるが、このIHとは誘導加熱(Induction Heating)の略語である。「誘導」とは電気の世界で有名な電磁誘導からきた言葉である。電磁誘導とは、磁気が変動すると電気が生まれるという自然法則だ。

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誘導加熱で調理するしくみを調べてみよう。装置はコイルと高周波電流発生装置からできている。このコイルに高周波(20〜30キロヘルツ)の電流を流すと、電磁石の原理で磁気が作られるが、それは鉄鍋や鉄釜に吸い取られる。鉄は磁気を吸収しやすいからだ。高周波電流の作り出す磁気は大きく変動するため、「電磁誘導」が働く。鍋や釜の底や壁面で誘導電流が生じるのだ。この電流が熱を発生させるのである。誘導電流が熱を発生する原理は、ニクロム線ヒーターが熱を発生するのと同じである。

このように、電子レンジやIH調理器は、電磁波や磁気を発生・吸収させて、食品や容器の内部に熱を発生させる調理器なのである。したがって、外側から食品を煮炊きする方法に比べて、調理時間が短く光熱費も節約できる。直接火を使わないので安全なことから、超高層マンションのオール電化生活を支える立役者になっている。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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