毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「圧倒的な光を放つ子役」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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趣里主演の109作目のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』が、10月2日から始まった。
本作は、大ヒット曲「東京ブギウギ」で知られる歌手・笠置シヅ子をモデルにしたオリジナルストーリー。大正から昭和の激動の中、大阪・香川・東京を舞台に、ヒロイン・花田鈴子(福来スズ子)が小さな銭湯の看板娘から"ブギの女王"と呼ばれるスター歌手となっていく姿を描く物語だ。
脚本は『拾われた男 Lost Man found』(NHK BSプレミアム)の足立紳と、NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』の櫻井剛であることから、期待度は高かったが、1週目はそれを上回る良さだった。
冒頭で華やかなスターになったヒロインの姿を見せると共に、「未婚の母」であることも、子どもにたっぷり愛情を注いでいることも、サラリと見せる信頼感。そこに、服部良一をモデルとした、草彅剛扮する羽鳥善一が登場。『拾われた男』の足立紳とのタッグの安定感に加え、やはりこの人が現れると、世界が一気に別の色に変わる異質さがある。
しかも、驚いたのは、ここから。趣里にもよく似た子役の鈴子を演じる澤井梨丘が、本作が初ドラマとは信じられないほどに、芝居も歌も凄まじく良いのだ。
愛情深い母・ツヤ(水川あさみ)と、ツヤと映画と酒が大好きな父・梅吉(柳葉敏郎)に大事に育てられた鈴子は、食いしん坊でお喋りで、勉強はちょっと苦手で、お節介で、明るく元気で、歌が大好きな女の子。主人公にしかなりえない強いエネルギーを放つヒロインは、銭湯の看板娘として伸び伸びとお客さんたちの前で歌を披露する日々だ。
そんな中、ツヤから「義理と人情」を教わると、早速実践。親友・タイ子(清水胡桃)の恋を応援しようと奔走する。強いエネルギーを持つ主人公の「お節介」という優しさ・親切心を周りが称賛するのではなく、その傍迷惑さもしっかり描くのが、本作の安心感。
タイ子は鈴子にやめて欲しいと言い、また、アクシデントがきっかけとは言え、相手に自分の思いを伝えることができて、鈴子のお節介な「義理と人情」に感謝する。
小学校卒業が迫り、進路が話題になる中、鈴子はタイ子から花咲少女歌劇団に行くことを勧められる。鈴子はツヤに相談し、自分の道を見つけるよう言われると、花咲少女歌劇団を受験したいと話す。驚いたのは、両親ともに大賛成で応援してくれたこと。
朝ドラではまず主人公の夢の前に父が立ちはだかることが多いのに、梅吉と来たら、本人以上にはしゃぐし、浮足立つし、緊張するし......これも朝ドラに多いクズ父でないことにも、ホッとしてしまう。
そして花咲少女歌劇団の受験日当日。生まれたときから花咲に入りたいと思っていたと、調子良くペラペラと嘘をつき、喋りすぎるほど喋る鈴子は絶好調で、歌も踊りもうまくいき、「言うことナシや!」と自信満々。しかし、合格者の中に鈴子の番号はなく、悲しみにくれる。両親にたっぷり愛情を注がれて育った自己肯定感の高さと伸び伸び具合、溢れるほどの自信、初めて味わう挫折の驚きと悲しみ。今は芝居の達者な子役が豊富にいるが、そうした巧い子役のくくりに並べられない、澤井梨丘の光の強さに目を奪われる。
そして、鈴子より激しく落ち込む父と、「誰が一番辛いと思ってるの⁉」とドヤして追い出す母。追い出された梅吉は、暢気に映画に行き、そこで道頓堀の「梅丸少女歌劇団」の募集チラシを見つける。
ショックで寝込んでいた鈴子だが、父のチラシの話にすぐに興味を示し、父と共に梅丸少女歌劇団のレビューを観に行くと、その美しさに魅了される。この立ち直りの速さ、止まっていられないエネルギッシュな性分も、実に気持ちが良い。
しかし、試験の日付を読み違えていたことで、試験日はすでに終わっていた。それでも鈴子は粘り、そこに菓子折りを持ってきたツヤも参入。1曲だけでも歌わせて欲しいと頼み込み、歌を披露。それを聴いた林部長(橋本じゅん)が、入団を認める。
このご都合的な展開を安っぽくさせないのは、アカペラで堂々と歌いきる澤井梨丘の歌が本当に素晴らしいから、そして、表情・仕草を含めて、そこが一瞬舞台に見えるほどの光を放っているから。それを信頼し、余計な演出をつけない制作陣にも敬意を表したい。
もう一つ、本作の魅力は、「生まれたときから花咲に」と平気でうそをつくヒロインや、お金を落としたと嘘をついて、以降毎日タダで風呂に入りに来る「アホのおっちゃん」(岡部たかし)、「体冷やしたらあかん、熱々や」ばかり言っている医師(妹尾和夫)、当たらないと評判の易者(なだぎ武)など、なんだか適当で調子が良くて、嘘もはらんでいること。
「正しい・正しくない」で断ずることのない、寛容で優しい世界が、まるで異国の話のように見えて、とっても心地が良いのだ。