新たな交友関係と働き方を発見できる! サロン「せめてしゅういち」を訪ねてみた

高齢者のための交流の場として作られる全国各地のサロンは、さまざまな創意工夫がされ、それぞれの個性を出して地元に根づこうとしている。そんな中にあって、東京都世田谷区にあるサロン『せめてしゅういち』は、ほかでは見られない特徴がある。参加する人たちも非常に楽しそうなのだ。『せめてしゅういち』の活動について話を聞いた。

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シニアが経験・特技生かし高齢者サービスを提供

「『せめてしゅういち』の仕組み?それぞれの人ができることをするんです」
代表の森田清子さんは朗らかにそう語る。

『せめてしゅういち』(以下『せめしゅう』)の活動拠点は『楽ちん堂CAFE』(世田谷区・野毛)。清子さんは、カフェと同じ建物内にある自宅で要介護の夫・雄三さんの介護をしながら『せめしゅう』の指揮を取っている。
活動のきっかけは、東京しごと財団が募集していた「60歳以上を雇用するモデル事業計画」の募集だった。

「それまでも高齢者が楽ちん堂CAFEに集まって、色々なことをしていました。そのとき財団の募集告知を見て『これだ!』と。高齢者が仕事の経験や特技を生かし、高齢者にそのサービスを提供するんです。『せめしゅう』の本格的な活動は、そのときから始まりました」

 
カフェが交友の場
各自が体験や思いを語り合う

さらに、清子さんにはもうひとつの思いがあった。
「私と森田は俳優のイッセー尾形が所属する事務所を運営していました。森田は同時に文章や芝居のワークショップを20年以上も主宰していて、終了時には『またみんなで会いたいね』なんて言っていたんです。ですが、その直後に森田が倒れてしまって」
要介護になってしまった雄三さんは、記憶障害も発症してしまった。

「目覚めたときに『自分は誰なんだ』と思ったそうです。森田にとっては知っている人がいない状態だったようです。そのとき妻である私がすべきことは、彼のために0からの交友関係を作ることだと思ったんです」

『せめしゅう』はその交友関係を作る場となったのだ。それは、ほかの人にとっても同じことだったのだろう。

「過去に紹介された記事を読んで『こういうところに来たかった』と、遠方から訪ねてくるシニアの方が少なくないんです。多くが一線を退いた人たちですが、60歳、65歳なんてまだまだ働きたい年齢じゃないですか」

新たな交友関係と働き方を発見できる! サロン「せめてしゅういち」を訪ねてみた f4e785c0afa7c38ef9969b83286d30ad-300x225.jpg代表の森田清子さん(左)と美術セット制作会社元代表の増島季美代さん

 
一人一人が今できることをする
ケータリングや断捨離手伝い

しかし、働き方は変わらざるをえない。『せめしゅう』は新たな交友関係と働き方を見つける格好な場となるのだ。結果、ここには実にさまざまな経歴をもった人たちが集まってきた。

ひとりきりのブースに篭り、社内で人と話すことなく海外投資の仕事をしていた人は、人と喋りたいと『せめしゅう』を訪れた。11年間母親の介護を続けている人は、経験者ならではの思いを胸に森田さんと話し、お互いに共感した。ほかにも料理のエキスパート、出版社元代表、『全国こども電話相談室』の元回答者、悠々自適に日本と海外を行き来する人も。

「シェフや料理が得意な人たちが献立を作り、調理し、今では『楽ちん堂CAFE』でケータリングもしています。これが好評で、先日はテレビドラマのロケ弁を任されました」

取材に同席してくださった美術セット制作会社元代表・増島季美代さんは、
「仕事柄、整えられた空間を作るのが当たり前になっているんですね。その経験を生かして断捨離のお手伝いをしたいと思っているんです」
と熱い思いを語った。冒頭に森田さんが言ったように、みんなが「できることをする」のだ。

実は『せめしゅう』を訪れる人はシニアだけではない。カフェは民間学童保育も行なっている。高齢者だけではなく、子どもやその親も、近隣の小さな社会がそこに存在している。

新たな交友関係と働き方を発見できる! サロン「せめてしゅういち」を訪ねてみた 925f96e5b00049a2e0e4c24eaa69a480-300x217.jpg調理の担当だった小林千鶴子さんが去る9月に急逝。その約1か月前に『せめしゅう』から出版された料理本『野毛村に嫁いで千鶴子のごはんは昭和の味』が思い出となった。

「ここに来ていると、私も遊んでばかりじゃなくて、やりたいと思うことをちゃんと形にしていかないと、と思うんですよ」
と、増島さんは前向きに語る。清子さんも、「『せめてしゅういち』には『せめて週1回会いましょう』という思いをこめました。でも、週3回、週5回も来る方も少なくないんです(笑)」と言う。今できることを今する。刹那に生きる。『せめしゅう』のそんな思いは、多くの人の心に染みこむようだ。(老友新聞社)

 

 
この記事は『日本老友新聞』に掲載の情報です。

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