「偵察に?」愛が、訊き返した。わたしは、うなずき、
「あっちの店が、どんなか、偵察してみる必要があるかも」
〈パスタ天国〉の店長も、うちを偵察に来た。それなら、こっちも偵察に行く必要があるだろう。
「でも、わたしたちの顔、バレてるよ」と愛。それはそうだ。さっきも、店長はわたしたちの事を見ていた。
「なんか、作戦を考えなきゃ......」
「え......これ?」と愛。その帽子を手にして言った。
翌日。お昼過ぎだ。
偵察には、愛を行かせる事にした。ボケナスのわたしが行っても意味がないので、目ざとい愛を行かせる事にした。親友のトモちゃんと二人で......。
「でも、わたしの顔もバレてるよ」と愛。
「だから、変装していくの」とわたし。古い野球帽をとり出した。
「変装?」
「そう、男の子にね」
あの、風呂場を覗かれたときの事。
たまたま覗いてしまったオッサンは、愛を見て〈坊や〉と言った。
酔ってた事もあり、愛を男の子だと思った......。それは使える......わたしは思った。
愛には、ジーンズを穿かせた。そして、わたしが中学生の頃に着ていたGジャンを出してきて着せた。
最後は、野球帽。お爺ちゃんがかぶっていた横浜のチームの野球帽だ。
愛の髪は、肩まである。その髪をアップにして大きめの野球帽の中に入れた。それを見て、
「いいかも」とわたしは言った。
その姿だと、男の子に見えない事もない。やや丸顔の男の子......。
5分後。店に入ってきたトモちゃんは、プッと吹き出した。
「どうしたの、愛?」
「イメージ・チェンジよ」とわたし。トモちゃんに事情を説明した。
「なるほど、変装か......」とトモちゃん。
「知ってる人なら、すぐに愛だとわかるけど、店の人は気がつかないかもね......」と言った。
「じゃ、頑張ってきて」わたしは、レジから千円札を三枚ほど出し、愛に渡した。
「ほら、たくさん食べるんだよ」
わたしは、猫のサバティーニに言った。
今朝は、久しぶりに魚市場で魚を拾えた。網から上げるときに傷がついた魚や、脚の千切れたヤリイカなどを拾えた。
わたしはいま、その中のアジをサバティーニに食べさせていた。
鮮度がいいので、サバティーニはアジの刺身をはぐはぐと食べている。その姿を眺めて、
「いくらでも食べていいからね、宣伝部長」とわたしは言った。
いつも、店の出窓から外を見ているサバティーニ。
その可愛さに惹かれて入ってくるお客も多いのだ。
強力なライバル店ができてしまったいま、招き猫のサバティーニは、頼みの綱かもしれない。
そんな事にはおかまいなく、サバティーニははぐはぐと魚を食べているけれど......。
「お帰り」とわたし。愛とトモちゃんが、店に戻ってきた。
「けっこう時間かかったね」二人が出て行ってから、2時間以上たっている。
「それが、いろいろあって......」とトモちゃん。
見れば、愛の表情が硬い。目も腫れぼったい。泣いたあとのように......。
「何があったの!?」とわたし。