経営危機を感じてライバル店を偵察! そこで使われていたのは地元の食材ではなく.../潮風テーブル(5)

【第1回】海辺のボロ料理店に台風到来! 不安な夜、少女が語った「離散した家族との思い出」

湘南の港町にある素朴な魚介レストラン「ツボ屋」。別名「ビンボー食堂」は女性店主・海果が、家族が離散した愛や町の人々の助けを借りて経営している。稼ぎ時の夏、大型台風の到来やライバル店の開店などが重なり大ピンチに...! 守りたい居場所が、ここにある――。『潮風テーブル』(KADOKAWA)は、海果を取り巻く人間模様を描いた心温まる物語。作中に登場する美味しそうな料理の数々とともにお楽しみください。

※本記事は喜多嶋 隆著の書籍『潮風テーブル』(KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

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5 そのパスタは、アフリカの漁師風


「それがね......」と、トモちゃんが口を開いた。

「笑っちゃ、愛に悪いんだけど......」と言った。すると愛が口をとがらせ、

「笑いごとじゃないよ」と言った。その顔が紅潮している。

トモちゃんが話しはじめた。  

二人は、20分近く並んで店に入ったという。

「あの30パーセント割引のチラシがあるから、かなり混んでた」とトモちゃん。  

それでも二人は店に入り、パスタをオーダー。食べはじめたという。

「食べ終わったあとなんだけど、愛がトイレに行ったんだ」  

トモちゃんが言った。

「行ったのはいいんだけど......」と愛。  

トイレは、当然、男性用と女性用がある。そこで、愛は一瞬迷ったという。  

普通なら、女性の方に入る。けど、いま愛は男の子のふりをしている。

「迷ったんだけど、思い切って男性の方に入ったんだ」と愛。  

そうしたら、同級生の男の子がそこで用をたしていたという。  

男性用といっても、個室はあるが、いわば立ちションできるようにもなっている。  

そこで、同級生のカマタという男の子が立ちションをしていたという。

「そのカマタがふり向いて......わたしと顔が合っちゃったんだ」と愛。

「で?」とわたし。  

そのカマタという子は、すぐ愛に気づいた。そして、なんと、

「お前、男のトイレ覗きにきたのか。スケベなやつだな」  

と言ったらしい。愛は、あわてて男性トイレを飛び出す。女性のトイレで用をたし、テーブルに戻ったらしい。

「テーブルに戻ってきた愛がベソかいてるんだ。〈クラスでスケベ女って言われちゃう〉って」  

トモちゃんが言った。

「そこで、わたしはカマタをつかまえて、店の外に引っ張り出したんだ」  

とトモちゃん。この子は、工務店の娘だけあって気が強い。

「カマタって、もともとエッチなやつで、ついこの前、わたしたち女子バレー部の更衣室を覗いたのがわかっててさ」

「へえ......」とわたし。

「だから言ってやったよ。愛が男子トイレに入ったのは単なる間違え。でも、あんたが更衣室を覗いたのはバレてるんだからねって」

「で?」

「更衣室覗きの件を大っぴらにされたくなければ、さっきの愛は見なかった事にするんだね、そう言ってやった」

「そしたら?」

「カマタ、がっくりうなだれてたわ」とトモちゃん。

「で、最後に言ってやったよ。誰があんたのちっこいチンポコなんか見るもんかって」  

店に笑い声が響いた。

 
※この記事は『潮風テーブル』(喜多嶋 隆/KADOKAWA)からの抜粋です。

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