【舞いあがれ!】脚本・演出家の交代、不自然な「朝ドラ伝統芸」...それでも本作が"安全飛行"できる理由

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「本作が"安全飛行"できる理由」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【先週】次週が不安な「2つの理由」。朗報続きという「不穏な予感」に視聴者ザワザワ

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福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第18週「親子の心」が放送された。

今週は脚本がメインライターの桑原亮子氏から佃良太氏に交代、演出が「分割画面」と「コメディ演出」お得意の野田雄介氏ということもあり、作風がガラリと変わることが予想されたが、はたして......?

IWAKURAでは菱崎重工の荒金(鶴見辰吾)から依頼を受けた航空機のボルトの試作品が完成。

貴司(赤楚衛二)の「長山短歌賞」授賞を祝う会に久留美(山下美月)が恋人の医師・八神(中川大輔)を連れて現れ、指輪に舞(福原)が気づくと「婚約しました」と指輪を見せる。

実際に「婚約しました」と指輪を見せる人ははたしてフィクションの世界以外にいるだろうか。

そもそも一般人が自分の話をするとき、「結婚するねん(結婚することになった)」という報告が自然で、結婚に至るまでの限定的な「婚約」をことさらに取り上げて言う時点で、そこから波乱が待ち受けていて、後に破談になるフラグに聞こえる。

もしかしたら八神とは家庭環境も価値観も根本的に合わないことを、賢い本能的に悟っていたのだろうか。

と思ったら、唐突にわかりやすい嫌みキャラの八神の母(羽野晶紀)が出てきて、久留美との結婚を認めないと言い、父・佳晴(松尾諭)に見下し発言をし、佳晴が土下座&タックルというわかりやすい展開に。

その後、八神がやって来て佳晴に仕事を紹介するが、久留美は怒り、八神に別れを告げる。

柏木(目黒蓮)と別れた舞と言い、久留美と言い、なぜか上から目線の男に惹かれがちなのは若気の至りか。

一方、強度試験の結果、IWAKURAのボルトは素晴らしい出来栄えだったと評価されるが、すぐに大量生産する設備の問題などから、発注先は競合相手の朝霧工業に決定する。

荒金はここで初めて浩太(高橋克典)が菱崎重工にいた頃の後輩だったと明かし、浩太の夢を妻子が継いでいることを応援したいと伝える。

そして、航空機部品に特化するつもりがないかと尋ねるが、めぐみはリスクを考え、辞退。

そんな中、IWAKURAに投資してくれた悠人(横山裕)が、めぐみにオーナーを戻すと言い、権利を返還に来る。

その後、航空機部品を作るという父の夢をIWAKURAが叶えることはなくなり、夢を失った舞のもとに、都合よく航空学校時代の仲間・水島(佐野弘樹)と吉田(醍醐虎太朗)が訪問。

その理由として「たまたま」を連発することも、新幹線で来るにしろ飛行機で来るにしろ、不案内の者たちが来阪するなら梅田あたりで落ち合うのが無難だろうに、あえて東大阪にノープランで来ることも不自然だし、浮ついた劇伴もちょっとスベッた印象だ。

ただし、彼らと喋る場所のためにデラシネを開放しろと貴司に迫り、絶対に断らせない舞の強引さと、舞をヨイショする水島、吉田、貴司らメンズ包囲網は、脚本家や演出家によって本作にも時折訪れる「朝ドラ王道ヒロインとゆかいな仲間たち」そのもので、部分的に浮いているものの、それはそれである意味朝ドラ伝統芸ともいえる。

しかし、その頃、悠人にインサイダー疑惑が......。

そんな中、心底ホッとしたのは、めぐみがリーマンショック時に倒産危機に遭った憂き目を忘れず、大きなリスクを背負う無謀なチャレンジをしなかったことと、そんなめぐみを押し切って舞が自分の主張を通さなかったこと。

これはおそらく舞が浩太の夢を継ぐことで、浩太に縛られ続けてしまう呪縛から、舞を自由にしようというめぐみの思いがあってのことではないか。

この選択を誤っていたら、IWAKURAも、本作も、どえらい展開になっていた気がする。

脚本家・演出家が変わるたびに乱気流に巻き込まれ、激しく乱高下を繰り返しつつも、なんとか安全な飛行を継続すべく、肝心な部分ではしっかり操縦桿を握り続ける桑原氏の思いを見た気がする第18週だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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