足元へいつ来りしよ蝸牛/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

pixta_41127509_S.jpg井上弘美先生に学ぶ、旬の俳句。7月は「小動物を詠む」というテーマでご紹介します。

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足元へいつ来(きた)りしよ蝸牛(かたつむり) 小林一茶

一茶には〈我と来て遊べや親のない雀〉〈やれ打つな蠅が手をすり足をする〉など、小動物を慈しんだ句が多くあります。

この句も「蝸牛」で小動物。一茶は若くして郷里を離れますが、ようやく俳人として名を上げて一時帰郷。ところが、父が腸チフスを発病。継母や異母弟との折り合いが悪く、孤独な看病であったことが『父の終焉日記』に綴られています。そんなある日の一句。蝸牛と会話しているような優しさで心打たれます。三十九歳の時でした。
一茶は一七六三年、信濃国柏原生まれ。数々の名句を遺して一八二七年に逝去。享年六十五。

 
白き花流れて来る浮巣(うきす)かな 大西 朋

卯の花・えごの花・沙羅(さら)の花・山法師(やまぼうし)・梔子(くちなし)・十薬(じゅうやく)など仲夏には白い清楚な花が多く咲く。

この句は「浮巣」と、そこに流れて来た「白き花」を組み合わせただけのシンプルな作品ですが、「花」の効果で透明な水流と、水辺を覆う涼しげな草花までが見えます。水鳥の中でも鳰(にお)の「浮巣」(※)は漂ってゆきそうな危うさで気掛かりです。巣の中には卵か、孵(かえ)ったばかりの雛たちがいるのでしょう。白い花と共に、自然の営みが無垢なるものとして描かれています。
作者は一九七二年生まれ。この度第一句集『片白草』で俳人協会新人賞を受賞されました。

※鳰の「浮巣」...水鳥の一種・鳰(カイツブリともいう)が水面に作る巣のこと。

 

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953 年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

この記事は『毎日が発見』2018年7月号に掲載の情報です。
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