サッカー日本代表・酒井宏樹「人は"褒められる"と落ち着く生き物」/リセットする力

サッカー日本代表・酒井宏樹「人は"褒められる"と落ち着く生き物」/リセットする力 24051814.jpgフランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。

◇◇◇

前の記事「酒井宏樹「"怒る"のではなく一緒に"解決の道"を探す」/リセットする力(7)」はこちら。

 

人は「褒められる」と落ち着く

「心と体はつながっているんだな」と感じることがあります。落ち着いている精神状態では必然的に良いプレーができますが、サッカー選手の精神状態は試合中に著しく変化するため、何かのきっかけで雰囲気が悪くなると、突如として、うまくいかなくなる事態が発生します。それまで動きの鈍かったチームが、得点を機に動きがシャープになったり、逆に失点したチームが目に見えて勢いを失ってしまうのは、そういう精神状態が大きく左右しているからだと思います。

サイドバックは試合の流れの影響をもっとも受けるポジションであり、一番流れを切れるポジションでもあります。そのためサイドバックは常に安定した精神状態でプレーしなければなりません。サイドバックの精神状態が悪ければ、試合も崩れてしまいます。

だからこそ僕は淡々とプレーしようと自分自身に言い聞かせています。ポジション柄、感情的になって良いことは何もありません。僕の理想は、コンピューターのように感情の起伏なく、冷静に淡々とプレーを継続することです。

しかし、試合中はどうしても気持ちが高揚してしまいますし、ダービーマッチなど大事な一戦でテンションが上がりすぎているときは、全員がおかしなテンションになる。そして、みんなの動きがいつもと比べて微妙に変わってしまうことがあります。

味方がサポートに来るタイミングが1秒遅いだけでも、連携にわずかな狂いが生じます。その少しの誤差が原因でサイドバックがパスを出すことができないと、パスの受け手ではなくサイドバックの責任になってしまう。つまり、テンションが上がることによって、実は味方も自分も難しい状況になることが多いのです。なので、できるだけ自分が冷静さを保ち、興奮気味の選手がいたら褒めて落ち着かせて、なるべくいつもどおりのプレーに戻すリセットが大切です。


「冷静」だから「楽しめる」

冷静にプレーができた象徴的な試合といえば、2017年8月31日、ロシア・ワールドカップ出場権を懸けたオーストラリア戦でした。埼玉スタジアム2○○2(まるまるに)は超満員で、ワールドカップ出場を期待するサポーターのつくり出す雰囲気によって、試合前から高揚感がありました。ただ、自分でも驚くほど、あの試合は冷静に戦えたと思います。

まず、試合前から右サイドの(浅野)拓磨(たくま)とはしっかりコミュニケーションが取れていたし、拓磨も僕の話を聞いてプレーをしてくれていたので、自分に課せられた守備のタスクがクリアになり、その部分でストレスを感じなかったことが大きかったのです。

そのなかで、拓磨が冷静に先制点を決めてくれました。僕もかなり頭をクリアにしてプレーができていましたし、相手の出方も読めて危険察知もうまくいきました。あの大歓声のなかでも個人的に高揚しすぎず、冷静さを保ちながら、ワールドカップ出場の懸かった大一番の雰囲気を楽しむことができました。基本的に、試合を楽しめているときは良いプレーができています。

ここで思い出される試合があります。2011年のJ1第27節、大宮アルディージャ戦。前日に優勝を争うライバルチームが星を落としたため、柏レイソルは大宮アルディージャに勝てば首位に浮上する大事な試合でした。

ただ、当時の僕は、この年にレギュラーの座をつかんだばかりで、チームをコントロールするような立場ではありません。誰かが上がれと言えば上がるし、残れと言われれば残る、その程度の経験値しかなかったので、常に自分のことだけで精一杯。試合のシチュエーションまで頭が回る余裕すらなかったのですが、普段どおりにはプレーができていました。

でも「勝てば首位」というシチュエーションがチームの精神状態に影響を与え、普段とは違うテンションで臨んだ結果、優勝争いを演じる柏レイソルは残留争いを繰り広げる大宮アルディージャに1対3で敗れました。

先制点を取ろうと、チーム全体が勝ち急ぎ、陣形がいつもより前がかりになっていたところをつかれ、大宮アルディージャに先制を許したことで、さらに守備がおろそかになり最終的には陣形が崩壊していきました。当時の僕にはできませんでしたが、もしいま同じようなシチュエーションの試合があれば、自分に対して「冷静に戦え」と言い聞かせ、淡々とプレーし続けられると思います。

 

次の記事「サッカー日本代表・酒井宏樹が語る、自分の体の見直し術/リセットする力(9)」はこちら。

撮影/千葉 格

サッカー日本代表・酒井宏樹「人は"褒められる"と落ち着く生き物」/リセットする力 70b58b481d3cafd83e83d74641372293cf601c70.jpg

酒井 宏樹(さかい ひろき)

1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。

サッカー日本代表・酒井宏樹「人は"褒められる"と落ち着く生き物」/リセットする力 37ebd8adf802848fdbe6ff1187023e2f562ceca5.jpg

『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』

(酒井 宏樹/KADOKAWA)

「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!

 
この記事は書籍『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46」』からの抜粋です。
PAGE TOP