女優・梶芽衣子インタビュー「自分の道を貫くために必要なのは、謙虚さに裏打ちされた自信と、健康」

女優・梶芽衣子インタビュー「自分の道を貫くために必要なのは、謙虚さに裏打ちされた自信と、健康」 _DSC0607.jpg17歳でスクリーンデビューして以来、映画『女囚さそり』の大ヒットやドラマ『鬼平犯科帳』への約30年にわたる出演などを経て、50年以上、女優として活躍し続ける梶芽衣子さん。初の著書『真実』(文藝春秋)では、波乱万丈の人生のなかで貫き通してきたプロ魂について語られています。発売を記念して、お話をうかがいました。

 

――梶さんがずっと「俳優業は向いていない」と思い続けてきたというのが衝撃でした。向いていないと思いながらも、50年以上お仕事を続けてこられたのはなぜなのでしょう。

梶芽衣子(以下、梶) この本にも書きましたけど、放任主義だった父が社会に出るとき唯一言ったのが「最初に就いた仕事は貫け」だったんですよ。貫くってどういうことだろう? と最初はあまりピンときてなかったけど、まあ、とにかく続けてみようと。

――現場で大根を持って立たされ、大根役者と揶揄されるなど、つらい思いをされたエピソードもたくさん書かれていました。

梶 当時の映画業界は完全な男社会だったし、今とちがって教育係なんて気の利いたものもないから、わからないことだらけの中、ずいぶんと悔しい思いもしました。毎日、家に帰ってお風呂の湯船の中で「うわ~!」と叫んでいましたよ。なんで私はこんなに馬鹿なんだろう、何もできないんだろう、って。

――その悔しさをどう乗り越えたんですか。

梶 とりあえずプライドを捨てることから始めよう、って思ったんですよね。そうじゃないとズタボロになっちゃうなって。社会人一年生で、わからないことだらけ。誰も私に期待なんてしていないのに、プライドだけひけらかしてどうするんだと腹をくくったのは大きかった。だって、ギャラが支払われる以上、私はプロとして現場に立つわけでしょう? プライドを示すのは仕事ができるようになってからよね、って。

――悔しさを原動力に。

梶 私、中途半端なことが苦手なんです。だからやると決めたからには、とことんやりました。どんな端役でも「梶芽衣子じゃなきゃ」と思ってもらえるように。脇役は、主役よりも努力しないと編集で切られちゃうんですよ。自分のセリフだけ覚えて現場に来た人って、見ていてすぐにわかる。たった一行しかセリフがなくても、むしろないときこそ、台本を10回は読まなきゃいけないと私は思う。作品におけるその役の意味を、そのセリフの意味を、どうしたら表現できるか考えなきゃいけない。背中しか映らない場面だとしても、無駄なものは台本にはひとつも書かれていないはずだから。

――それはどんな仕事においても言えることですね。

梶 仕事として用意されている以上、どんな雑用でも無駄なものなんて一つもないと思いますよ。それが自分の代表作にならなかったとしても、「この人なら任せられる」という信用を積み重ねていくことが前進につながると私は思います。

――自分を貫きとおすその強さは、どこから生まれてくるんですか。

梶 父から言われた言葉も大きいと思うけど......やっぱり自信を持つことですね。間違えちゃいけないのは、自信と自惚れは違うってこと。自信は謙虚、自惚れは驕りです。謙虚さがなくなると人間って学ばなくなるの。そうなったら終わり。前にも上にもどこにも行けなくなってしまう。これまで仕事をしてきて「この作品は素晴らしくうまくいった!」なんて達成感は一度も味わったことがない。

――約50年、一度もですか。

梶 一度もない。見るたび反省しか沸いて出ないから、DVDの類も一切持っていないし、自分の作品は見返さない。でもだからこそ続けてこられたんだとも思う。いつか満足する日がくるかもしれない、って努力できるから。

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――自分の道を貫いていくために、いちばん必要なことは何だと思いますか。

梶 やっぱり健康ですよ。健全な精神は健全な身体に宿りますから。こういう話になると、最近私が絶対に話すのは「歯」のこと。私は毎日歯磨きには20分かけるし、歯ブラシと歯間ブラシはあわせて11本持っているんです。というのもね、私は45年以上前から同じ歯医者さんにかかっていて、口腔を清潔にしておくことが内臓の健康に大事なことだって教わったんですよ。

――『アウト×デラックス』(フジテレビ)に出演されたときも、歯磨きへのこだわりを明かされていました。

梶 何を食べるにしても必ず口の中を通るわけだから、そこにばい菌があったら、食べ物と一緒に内臓に降りていっちゃうでしょう。今でも半年に一度、検査をしてもらっています。あとは先ほども言ったとおり、謙虚さに裏打ちされた自信を持つことですね。

――常に初心に立ち返りながら努力し続ける、その姿勢が梶さんの美しさの理由なんだと本書を読んで感じました。

梶 これも本に書いたけど、ニューヨークに留学したとき、ブロードウェイの主演女優が劇場前で植木鉢を売っているのを見かけたんですよね。オーディションがなければ彼女たちは舞台に立てない。だからその間は、花を売ったりウエイターをしたり色んな仕事をして食いつなぐ。でもそのことにまったく腐っておらず、誇りをもってやっている。どれほどの思いで演劇に心を捧げているんだろうって胸を打たれました。私が美しいかどうかなんてわからないし、自分の生き方を他人に押しつける気もまったくないんですが、でもそういう姿勢を持ち続けることは生きていくうえで、仕事を貫いていくうえで、とても大事なことだなと思います。

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インタビュー・文/立花もも 撮影/岡村大輔
 

梶芽衣子(かじ・めいこ)さん

1947年、東京都生まれ。高校在学中にモデルデビュー。卒業後に日活に入社。映画『悲しき別れの歌』で本名の太田雅子で女優デビュー。69年、梶芽衣子に改名。「野良猫ロック」シリーズ、「女囚さそり」シリーズ、「修羅雪姫」シリーズなど数々のヒット作を打ち立てたあと、テレビ業界にも進出。「鬼平犯科帳」シリーズでは28年間、密偵・おまさ役を演じる。歌手としても活躍し、2018年4月18日にアルバム『追憶』発売。

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『真実』

(清水 まり, 梶 芽衣子/文藝春秋)

17歳でスクリーンデビューして以来、女優として自分の道を貫いてきた梶芽衣子。華やかな舞台の裏で経験した悔しさの数々、恋人からのDV、勝新太郎や高倉健との思い出、これからも続けていく歌手活動......。負けん気の強さと「勉強、努力、忍耐」のスローガンで切り拓いていきた人生を振り返った初の自伝。

 

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