高齢になってからも残しておいた方がいいものは何ですか?/岸見一郎「老後に備えない生き方」(1)

pixta_12616711_S.jpg『毎日が発見』本誌で連載中の哲学者・岸見一郎さんの「老後に備えない生き方」。今回はその1回目を掲載します。

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老後に備えない? 誰だって備えているではないか。たちまち反論されるだろう。一体、どういう意味なのかを読者の皆様からいただいている相談にも答えながら、できるだけ具体的に一緒に考えていきたい。

ゲーテが「人は努力している限り迷うものだ」といっているように、人は何歳になっても生きている限り、悩みが尽きることはない。人との付き合い、老い、病気、死等々、心を煩わせることは多々ある。

哲学はそれらの問題について、どう考えればいいのかという解決に至る方向性を明らかにしようとする。解決に至る方向性という回りくどい言い方をしたのは、世の中には答えが出ない問いがあるからである。例えば、死とは何かという問いに答えることはできない。死んだ後この世に生還した人は誰もいないからである。

それでは、答えが出ない問いを探求することには意味がないのかといえば、そうではない。次のような読者からの相談が私の目を引いた。

「高齢になってからも、残しておいた方がいいものは何でしょう」

私は溢れんばかりのエネルギーと知的好奇心だと考えている。歳を重ねるとできないことが増えてくるが、これさえあればいつまでも若さを保つことができるからである。

哲学は、その言葉の本来の意味は「知を愛すること」である。知的好奇心というのは、この意味で哲学である。答えが出なくても、答えが出なくて迷うことがあっても、それは努力していること、真剣に生きているということの証しである。答えが出ないからといって、考えなければ悩みがなくなるわけではない。そうであれば、いよいよ考えるしかないが、考えることが喜びになり、人生が少しでも違ったふうに見えるようになればと願いながら連載を始めたい。

 

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<教えてくれた人>
岸見一郎(きしみ・いちろう)先生

1956年、京都府生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書はベストセラーの『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)をはじめ、『幸福の条件アドラーとギリシア哲学』(角川ソフィア文庫)など多数。

この記事は『毎日が発見』2018年2月号に掲載の情報です。
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