「日々、脳を使います。もう職業病ですね(笑)」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(4)

「日々、脳を使います。もう職業病ですね(笑)」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(4) 4.jpg空海を主人公に、壮大なイマジネーションで描かれた『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。2004年に出版されたこの小説が、日中共同制作の映画になりました。唐(とう)の都・長安(ちょうあん)を舞台に壮麗な映像美で描かれるのは、空海や白楽天(はくらくてん)、玄宗皇帝(げんそうこうてい)や楊貴妃(ようひ)が登場するミステリータッチの謎解きエンターテイメント。原作者の夢枕獏さんにお話を伺いました。

独自の世界を描き続ける夢枕さん。日々の話を伺うと、小説家ならではの興味深い頭の中が少しだけ覗けました。最後には、小説でも映画でも見どころになっている華麗な宴のシーンについての秘話も。お楽しみください。

前の記事「「老人になるための努力をするより、好きなことをすること」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(3)」はこちら。

 

この宇宙がどうなっているかが気になるんです

―まだまだお書きになりたい話がたくさんあるとおっしゃっていましたが、日々、頭を使っていらっしゃることが若さの秘訣(ひけつ)ですか?

夢枕 たしかに普段の生活は、脳を使いますね。職業病だと思うのですが、この宇宙がどうなっているのかが気になるんですよ。例えば、カミさんが何かを言った時に「いま、なんて言ったの?」と聞き返すと、僕の耳が遠くなったのを知っているから、別の言い方をしてくれるんです。でも、僕が気になるのは、さっき彼女が何を言ったか。さっき所属していた10秒間の宇宙がどういうものなのかを知りたいんです。カミさんが何を言いたかったかよりも(笑)。

 

―(笑)

夢枕 そういうことを日々、真剣に考えます。昨日と同じ風景なのに、今日違うのはなぜなのか。天井のパネルの数も気になります。シャーロック・ホームズがワトソンに言うんですよ。「君は観察をしていない。いつも2階にあるベイカー街21番地Bのこの部屋に来るけれど、階段が何段あるか君は知らないだろう。何段だよ」って。それから僕は気になってね(笑)。ホテルに入ったら非常口を確かめるし、船に乗るときは、大きなペットボトルを1本抱いて寝ます。何かあったら、半分空ければ浮力体になるし、半分は生存するための飲み水になりますから......職業病ですね(笑)。

 

映画の見どころ。華やかな宴のシーン

―執筆する時の脳は?

夢枕 ひたすら作品世界に入ります。今は以前より入るのに時間がかかりますね。実はこの映画で中国に行ったりして、あとは引っ越しのため初めて4か月も書いていないんです。気持ちは狂ったように書きたいのですが、引っ越しの荷物の整理もあれば腰も痛い(笑)。早く「空海」書かないといけません(笑)。

 

―そんな著書「空海」のタイトルにもある「宴」のシーン。映画の中でも美しい見どころです。

夢枕 宴の席で楊貴妃が「清平調(せいへいちょう)」という曲に合わせて踊るのですが、新たな歌詞で踊ったらどうかと玄宗皇帝がその場に李白を呼んで書かせるわけです。すると李白が「雲には衣装を想い、花には容(かたち)を想う」と謳(うた)う。雲を見ると楊貴妃の衣装を思い出し、花を見ると楊貴妃の顔を思い出すというんですね。楊貴妃に対して、「花のように美しい」というんじゃなくて、花に「牡丹よ、おまえは楊貴妃のように美しい」というレトリックですからね。李白は天才ですね。モーツァルトのようだと思います。僕は当時の長安はローマよりすごかったと思うのですが、その長安の全ての才能が集まったのが、あの宴だったのではないかと思いますね。

 

取材・文/多賀谷浩子

「日々、脳を使います。もう職業病ですね(笑)」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(4)
夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)さん

1951年、小田原生まれ。東海大学卒業。『上弦の月を喰べる獅子』で第10回日本SF大賞、『神々の山嶺』で第11回柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で第39回泉鏡花文学賞、第5回舟橋聖一文学賞、第46回吉川英治文学賞を受賞。『キマイラ』シリーズ、『陰陽師』『獅子の門』『大帝の剣』など著書多数。

『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』

2月24日(土)全国東宝系にて公開
監督:チェン・カイコー 

出演:染谷将太、ホアン・シュアン、チャン・ロンロン、火野正平、松坂慶子、阿部寛ほか
声の出演:高橋一生、吉田羊、東出昌大、イッセー尾形
©2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

配給:東宝・KADOKAWA

 
この記事は『毎日が発見』2018年2月号に掲載の情報です。

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