「老人になるための努力をするより、好きなことをすること」/映画『空海』公開記念! 夢枕獏さんに聞く、空海の底知れぬ魅力(3)

5.jpg空海を主人公に、壮大なイマジネーションで描かれた『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。2004年に出版されたこの小説が、日中共同制作の映画になりました。唐(とう)の都・長安(ちょうあん)を舞台に壮麗な映像美で描かれるのは、空海や白楽天(はくらくてん)、玄宗皇帝(げんそうこうてい)や楊貴妃(ようひ)が登場するミステリータッチの謎解きエンターテイメント。原作者の夢枕獏さんにお話を伺いました。

夢枕さんに空海のお話を伺っていると、まるでその時代を訪れて、その目で見てきたかのようなリアリティが感じられます。執筆を経て気づかれた空海のすごさについて伺ううち、話は夢枕さんの尽きない執筆への情熱、やがて若さの秘訣へと至りました。

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空海のいちばんのすごさは、人間を許す力ではないでしょうか

―書きながら、空海のすごさに気付かされたところは?

夢枕 書き上げてから随分たってわかってきたことですが、空海のいちばんの力は人間を許す力だと思うんです。立川談志は「落語は業(ごう)の肯定だ」と言いましたが、落語に出てくる庶民の代表である八っつぁんや熊さんは、拾ったお金を自分のものにして、飲んで遊んじゃう。人間のそういうところを愛せないと、落語はできない。そういう力が空海は半端なく強かったのではないかと。そうでなければ、一人の人間が起こした宗教が高野山(こうやさん)という場所で、いまに至るまで続いていないと思うんです。空海の根源にあるのは、あなたの神様と私の神様は一緒ですよ、すべては大日如来であるという考え方でしょう。だから空海が日本に持って帰った密教は日本の宗教と上手に融合したんですね。

高野山というのはもともとは古代の神々の住まう場所。熊野も近いし、日本古来の神々の聖地です。空海はその神々を説得して、あの土地を使うことができたのではないかと僕は思うんです。朝廷から高野山をもらったわけではないのではないかと。空海が全部、自分で根回しをした上で、朝廷から「よろしい」という許可が出たのではないでしょうか。

 
ー根回しといえば、小説中の空海が20年の約束で唐に渡ったところを、2年半で帰るに至るやりとりも面白いですね。

夢枕 もう手品のようですよね。空海は4隻の船で唐に渡るのですが、嵐で1隻が沈没し、2隻が唐に到着。そのうちの1隻に空海が乗っていました。残りの1隻は日本に漂着したんですね。それが出直して、遅れて唐にやってくることになった。空海が乗って日本に帰ったのは、遅れてだどり着いたその船だったんです。当時、遣唐使船以外にも、大陸と日本列島は日頃から行き来がありましたから。空海は近々、その遣唐使船がやってくるという情報を得て、急いだのではないでしょうか。

 

書いてみたいいい話がたくさんあるんです

ー小説はもちろん、お話を伺っていると、夢枕さんが実際に見てこられたことのように感じます。

夢枕 書いている時は、目に映る風景と比べながら、その場にいるつもりで書いています。この小説を書いていた時は、もっとすごいものをこの後書くんだと思っていて、書いていた17年間は、そのためにこの小説を早く終わらせなければと思っていたのです。でも、いま思うと、実際その時には一生に何度かの仕事をしていたんだなと。そういうことは後で分かるんですよ。

 
―文庫版の「あとがき」で、これからお書きになる予定の作品を挙げていらっしゃいますね。

夢枕 まさにいま、それを書いています。まだ終わっていないんです(笑)。これから書いてみたい、いい話がいっぱいあるのですが、もう17年もかけられないですからね。そうすると僕も80歳を過ぎてしまいますから。

 

―いえいえ、まだまだ大丈夫かと。年齢を重ねることは?

夢枕 年はねえ...(笑)。若い時はいろいろ考えるんですよ。こういう老人になりたいとか。でも、老人になるための努力をするより、好きなことをやること。それに尽きると思います。

 

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取材・文/多賀谷浩子

夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)さん

1951年、小田原生まれ。東海大学卒業。『上弦の月を喰べる獅子』で第10回日本SF大賞、『神々の山嶺』で第11回柴田錬三郎賞、『大江戸釣客伝』で第39回泉鏡花文学賞、第5回舟橋聖一文学賞、第46回吉川英治文学賞を受賞。『キマイラ』シリーズ、『陰陽師』『獅子の門』『大帝の剣』など著書多数。

『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』

2月24日(土)全国東宝系にて公開
監督:チェン・カイコー 

出演:染谷将太、ホアン・シュアン、チャン・ロンロン、火野正平、松坂慶子、阿部寛ほか
声の出演:高橋一生、吉田羊、東出昌大、イッセー尾形
©2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

配給:東宝・KADOKAWA

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この記事は『毎日が発見』2018年2月号に掲載の情報です。
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