なぜ体力測定B判定でも、日本代表として世界を相手に活躍できたのか?
数々の記録をもつ天才サッカー選手・遠藤保仁の「最速で最高の決断」をくだす思考のつくりかたの極意を大公開!
「やることが山積みで全然前に進まない」「頭の中がごちゃごちゃでつらい」などの悩みをかかえているあなた、本書『「一瞬で決断できる」シンプル思考』から考え方のコツを学びましょう。
◇◇◇
前の記事「「先読み力」は車の運転、買い物でも磨かれる/遠藤保仁「一瞬で決断できる」シンプル思考(4)」はこちら。
自分の予測が必ずしも正解とはかぎらない
当然、先読みが外れることもある。むしろ当たることのほうが珍しいくらいだ。敵味方合わせて22人の選手がたえず動き、それぞれが先読みをしながらプレーしているわけだから、自分の思い通りになるほうが確率的にはずっと低い。
たとえば、パスを出そうとしていたスペースに敵の選手が入ってくることもあるし、僕が出したいパスに味方の選手が反応してくれないときもある。しかし、先読みが外れても、ゼロに戻るだけである。先読みが外れたからといって、相手に負けたことにはならない。先読みが外れたなら外れたで、すぐさま別の選択肢を模索し、状況に応じた最善のプレーをするだけである。
先読みが外れると、途端に混乱し、自ら不利な状況に追い込まれてしまう選手もいる。サッカーはプラン通りに進むことはまれなのだから、いちいちパニックに陥っていたらまともに戦うことはできない。
追い込まれてしまうのは、先読みの選択肢をひとつしかもっていないからだ。だから、先読みが外れても動揺しない秘訣は、選択肢をたくさんもつことに尽きる。ひとつでも選択肢が残れば、自信をもってプレーをすることができるはずだ。
イメージの共有が別次元へ
先読みによる予測は外れて当たり前であると同時に、絶対的な正解は存在しない。たとえば、僕がパスを受ける前に「味方のあの選手が右前のスペースに走り込んだところにパスを出せば、フリーになって得点のチャンスにつながる」と考えたとする。しかし、いざパスを出そうと思ったとき、その味方の選手は前のスペースに走る気配を見せなかった。そのままパスを出しても通らないと判断した僕は、別の選択肢を選ぶことになった......。
このような場合、僕は「なんで右前のスペースに走り込まないんだ! チャンスを棒に振ったじゃないか」と相手を責めることはない。同じピッチに立っていても、自分が思い描く絵と他の選手が思い描く絵が一致するとはかぎらないのだ。もしかしたら、先の味方の選手は、自分がそのスペースに走ることで、自分の後ろのスペースが空いてゴールに直結するようなピンチを招きかねない、と判断したのかもしれない。その選手がそう判断したのなら、それが正解なのである。
つまらない凡ミス以外、基本的に、選手が選択したプレーはすべてが正解だと思っている。自分の予測が正解で、他の選手の予測が不正解である、ということは絶対にない。自分の予測が不正解であることも十分にありえる。だから、試合中であっても試合後でも、「なんでそんな動きをしたんだ! おまえが俺の言う通り動いていたらゴールできたのに」などと責めることは絶対にない。
ただし、自分が予測して思い描いている絵と、他の選手が思い描いている絵を確認し、微調整することは大切にしている。「さっきのプレー、こういう選択肢もあったぞ」と相手に伝える。場合によっては、相手から「いえ、こういう選択肢もありました」という言葉が返ってくることもある。
大切なのは、それぞれの思い描いた絵を確認し合って、「色彩」を合わせることだ。このような一見単純ともいえるような作業を繰り返すことによって、それぞれのビジョンが合致して、うまく連動できるケースが確実に増えていく。自分の絵を押しつけることは簡単だが、そうすると、相手の選手は同じ色しか使わないようになる。色彩はバラエティーに富んでいるほうが、いいに決まっている。攻撃のバリエーションが増えて、敵の裏をかくこともできる。
一般社会でも上司が部下に、考え方ややり方を押しつけるのは簡単だと思う。それは仕事の効率化につながるかもしれないが、言われたことしかしない部下を生み、反発する抵抗勢力を生むリスクもあるはずだ。そうなれば組織の力は劣化してしまうのではないだろうか。一方で、チームで結果を出すような仕事の場合には、こうしたイメージの共有を定期的に行うと成果が挙がることも多くあるのではないだろうか。
次の記事「「執着は手放したほうがよい」は本当か?/遠藤保仁「一瞬で決断できる」シンプル思考(6)」はこちら。
撮影/佐藤 亮
遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとして、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録をもつ。178㎝、AB型。
『「一瞬で決断できる」シンプル思考』
(遠藤保仁/KADOKAWA)
「国際Aマッチ出場数最多記録保持者」など、数々の記録をもつ天才サッカー選手・遠藤保仁の「一瞬で決断できる」シンプル思考の原点に迫る! 年齢を重ねるごとに進化する「最速で最高の決断」をくだす思考のつくりかたの極意44。