世界的に期待されている免疫療法
がん治療は、長足の進歩を遂げています。外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法の三大療法を組み合わせて行うのが、がん治療の王道ですが、最近は第四の治療として一部の免疫療法が注目されています。
肺がんの高価な薬として話題になったオプジーボは、免疫チェックポイント阻害剤という免疫療法の一つです。肺がん治療で一年間、オプジーボを使うと約3500万円かかりましたが、今年2月に薬価が改定されて約1700万円に抑えられるようになりました(注・どちらも保険適用前の全額)。公的保険の適用も肺がん、皮膚がんだけでなく、腎細胞がん等に拡大されています。
また、開発段階ですが、キメラ抗原受容体遺伝子誘導T細胞療法(CAR-T細胞療法)という治療法もあります。今後白血病だけでなく、がん治療を大きく変える可能性があり、世界的に注目されています。
ぼくは、イラクの白血病の子どもたちの医療支援を13年間続けてきました。近い将来、信州大学医学部小児医学教室の中沢洋三教授の支援を受けて、CAR-T細胞療法を行う医療センターを中東につくる計画をしています。
しかし、免疫療法と名のつく治療法のなかには、効果が証明されておらず、保険適用外で、大きな自己負担を伴うものが大半です。効かないのに300万円以上かかることが多い。ムードに流されないようにしたいものです。
こうした新しい治療法が登場すると、がんを完治させるために、イケイケドンドンと治療を進めるようなムードが高まりがちです。しかし、一人ひとり正解が異なるのががん治療です。治療によって得られるリスクとメリットをよく見比べながら、その人の価値観や生き方にとって、メリットが上回るものを選択する必要があるでしょう。そうして考えると、がんの標準治療が、すべての人にとって第一選択になるとは限らないのです。
後編:鎌田實さん「かしこく暮らすために」がん治療②自分で決める"自己決定"が大切です はこちら。
鎌田實(かまた・みのる)
1948 年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行を生きる』(清流出版)、『検査なんか嫌いだ』(集英社)。