「初鶏にこたふる鶏も遠からぬ」一年の始めをめでたく/井上弘美先生と句から学ぶ俳句

「初鶏にこたふる鶏も遠からぬ」一年の始めをめでたく/井上弘美先生と句から学ぶ俳句 pixta_24267226_S.jpg井上弘美先生に学ぶ、旬の句。今回は「一年の始めをめでたく」というテーマでご紹介します。

前の記事「「寒林や水を湛ふる赤子の目」親の子風景を読む/井上弘美先生と句から学ぶ俳句」はこちら。

 

初鶏にこたふる鶏も遠からぬ 阿部みどり女

元旦のことを鶏旦(けいたん)というように、かつて一年は夜明けに鳴く鶏の声によって始まりました。「初鶏」は新年の季語です。

この句は、一年の始まりを告げる「初鶏」の声に、近所の鶏が応えたというのどかな内容です。自註(じちゅう)によると最初「遠からず」であったのを「遠からぬ」と改めたとのこと。「ぬ」には「切れ」を強める働きがあるので引き締まったのです。二羽の鶏の声が高らかに響いて、おおらかに始まる一年です。
作者は明治十九(一八八六)年、札幌生まれ。『駒草』創刊・主宰し、蛇笏(だこつ)賞を受賞。昭和五十五(一九八〇)年没。

 
真つ先に触れし破魔矢を買ひにけり 村上喜代子

「破魔矢」は新年の季語。正月の縁起物として人気があります。初詣の人々が「破魔矢」を掲げて歩くと、新年らしい淑気(しゅくき)が感じられます。

この句は「真つ先に」が眼目。初詣の人々で混雑していたのでしょう。たくさんの「破魔矢」がある中で、ゆっくり選ぶこともできず、最初に手に触れた「破魔矢」との縁を大切に迷うことなく求めたのです。「これ」と決める決断の良さに、新年らしい勢いが感じられます。
作者は昭和十八(一九四三)年、山口県生まれ。俳人協会新人賞を受賞した第一句集『雪降れ降れ』よりの一句です。

「初鶏にこたふる鶏も遠からぬ」一年の始めをめでたく/井上弘美先生と句から学ぶ俳句 A9R18lhz3v_3t01kn_9q0.jpg
<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

 
この記事は『毎日が発見』2018年1月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「趣味」のキーワード

PAGE TOP