響は、そのままでいいー母から子へのメッセージ/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』

20.jpg10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。今回は母・久美子さんからのメッセージです。

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前の記事「できないことは誰かに助けてもらえばいい/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(19)」はこちら。

 

家族という小さな社会を回して行く

発達障害にかぎらず、人種差別や宗教のこと、LGBT、さらにはマタニティハラスメントまで、世の中は「多様性を認めよう」などと言いながらも、まだまだ現実は厳しいものです。だけど、せめて親が、自分自身の価値観をしっかり持って、子どもに接したいと思っています。

自分と子どもたちだけでも、そこは小さな多様性がある社会。その関係の中で、互いの違うところ、多様性を認め合いながら生きていくことを考えながら生活できると、だいぶ違うと思うんです。

そういえば、以前わが家でこんなことがありました。

響が家にいるようになった、ある日のこと。響は5行くらいの内容のことを紙に書き写そうとしたものの、朝から始めて、弟たちが学校から帰ってくる夕方まで、1行も書けていないことがありました。

自分が丸1日かけても書くことができなかったことに、響自身ショックを受けて、「ぼくは何をやっているんだろう」と頭を抱えてしまったのです。

すると、弟たちが「できないのが、ひーくんじゃん。ひーくんにしかできないことがあるんだから、それでいいんだよ」と言って慰めていたんです。
絵が上手で、漫画も描けちゃうひーくん。盆栽に詳しくて、自分でも作っているひーくん。骨董市でかっこいいものを見つけてくるひーくん。おいしいカレーを作ってくれるひーくん。

弟たちは、響のいいところをたくさん知っていて、それを純粋にすごいと思っていて、お兄ちゃんとして尊敬していたのです。

家族とは、すごく少人数の小さな輪だけど、それもひとつの社会。そこが回りだせば、社会も回りだすのではないかと思えた瞬間でした。生活はいろいろ変化したし、私たち夫婦の考え方も変わってきたけど、響は本当に変わっていません。

小さい頃から、自分の世界を楽しみながら生きている。だから社会性とか一般的なコミュニケーションを求められる環境では、ギクシャクするところはあるけれど、決して人のことを傷つけるようなことはしないし、とてもやさしい子であることは、小さい頃から何も変わりません。

響は何も変わっていないし、じつは、変わる必要もなかったんです。

それを、私の価値観で、私の主観で育てようとしちゃうから、うまくいかなくて、難しくて悩んでいたのだといまならわかります。私たちがサポートできるのは、環境を整えること。響が自分らしく、生き生きと過ごせるように、周囲を整えることだけ。

響は言われたことはできるけど、その先まで気を回して自発的にやるのは難しい。でもこれは、逆に言えば、「ちゃんと伝えれば、ちゃんとやれる」ということです。「なんでわからないの?わかってよ」と責めるのではなく、伝え方を変えればいいだけ。だから、つねに自分がどうすればいいのか?ということを考えられるようになりました。

もちろん、響のやることを手放しで認めてあげるわけではありません。お客さんに対して失礼な態度をとったり、変な行動をしたりしたときには、「その考え方は通用しないよ」と注意します。「いま、どうしてそんな言い方になっちゃったのかな?」という理由も聞きます。彼なりに独自の解釈があるので、それを聞いたうえで、「そうだったのね。だったら、こういうやり方にしてみたらよかったね」と話し合います。

私たちのほうへ響を寄せてこようとするのではなく、自分たちが言い方や伝え方を変えればうまくいく。そう気づいたのです。

いまはオープンしたお店をどうやって軌道にのせていくか、という前向きな悩みについて話し合うことばかりなので、私たちも楽しいです。「なんでできないの?」よりも、「どうしていきたい?」と考えるほうが自由だし、ワクワクします。

仮に響の興味の対象が変わって、別のことを始めたくなってもいいな、とじつは思っています。だからお店の名前も「HORIZON LABO」。研究所です。

もしかしたら、この研究所兼お店をオープンしたことが、響にとっていちばんいい選択ではないかもしれません。いまはこれが合っているけれど、これからまた別の生き方があるかもしれない。あえてそう思うようにしています。

これじゃなきゃいけないと思うとしんどくなります。これだと決めた瞬間に、安心もあるけれど、縛られることになってしまうから。

だから、つねにふらふらしながら考えていくのが、岩野家らしいのかなと思っています。何も決めてない分、いちいち「どうする?」「どうした?」となります。だから、忙しいけど楽しいことも多いし、おもしろい人に出会えるし、楽しいことも多いのです。

 
撮影/木村直軌

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岩野 響(いわの・ひびき)

2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。

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『15歳のコーヒー屋さん』

(岩野 響/KADOKAWA)

現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。

『15歳のコーヒー屋さん』

 

「HORIZON LABO」公式ホームページはこちら「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。

この記事は書籍『15歳のコーヒー屋さん』からの抜粋です
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