10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。
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人見知りのぼくもコーヒーのことなら饒舌に
ぼくにとってコーヒーは、さまざまな人たちと交流できるきっかけでもあります。「コーヒーが好きなんです」と言うと、「これ飲んだことある?」「ここのカフェがいいよ」などと話が広がります。
ぼくは初対面の人と話すことや、電話で話すことがちょっと苦手ですが、コーヒーのことになるとついしゃべりすぎてしまいます。
じつは、はじめてコーヒー豆を焙煎した小さな手回しの焙煎器も、いまも仕事で使っている大型の焙煎機も、コーヒー好きでつながった方たちから譲り受けたものです。
また、いまぼくのコーヒーは通信販売で購入できるようになっていますが、それも、お客さんの中でぼくを支援したいと申し出てくださった方がつないでくださったご縁です。
想定以上の反響で、店頭販売が難しくなっていた頃に、お店に来てくださり、「それだったら商品は通販にして、響くんはコーヒー焙煎とその研究に徹したらいいよ」とおっしゃってくださったのです。そういう縁がありがたいなと思っています。
過敏な味覚と嗅覚が焙煎の役に立つ
一般的に、発達障害がある人は特定の感覚が過敏になることが多いそうです。母が言うには、ぼくにとってはそれが味覚と嗅覚です。
といってもぼくは生まれたときからこの感覚ですし、人より優れているかどうかも比較できないので、正直よくわかりません。
ただ、同じく母から聞いた話だと、グラタンを作るのにいつものバターがなくて、違う銘柄のものを使ったら、「今日はバターが違う」と指摘したこともあったそうです。また、出汁(だし)を替えたり調味料を替えたりすると、すぐに気づいていたみたいです。
味覚や嗅覚が鋭すぎると、偏食になりやすいという話も聞きますが、ぼくの場合は食べられないものは、そんなにありません。
食べ物は、どちらかというとシンプルなものが好きで、野菜をオリーブオイルと塩でソテーしたような、素材そのものの味がわかるもの、香草やハーブ、山菜などの香りのある食べ物も好きですね。
料理に使われている油の味は気になります。だから、ハンバーグやオムライスといった、子どもが好みそうな食べ物より、玄米菜食、煮物といった渋い和食が好きなのかもしれません。
一般的に、焙煎の仕事は味覚と嗅覚が研ぎ澄まされていないと務まらない仕事だそうです。これまで特に自覚はしてきませんでしたが、ぼくの生まれながらに持つ特性が、この仕事に生かされているのかもしれません。
撮影/木村直軌
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岩野 響(いわの・ひびき)
2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。
『15歳のコーヒー屋さん』
(岩野 響/KADOKAWA)現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。