ある日、頭や背中、わき腹などの、体の左右どちらかの皮膚にピリピリした痛みを感じた後、赤い班や小水疱(水ぶくれ)が出てきた...急にそんな症状が出現したら戸惑うものです。実は、これが帯状疱疹(たいじょうほうしん)の典型的な症状。加齢や過労、病気、旅行に出かけて疲れがたまった時などに、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが再び活動し始めて起きる病気です。帯状疱疹の特徴や治療法、後遺症、他の病気との見分け方などについて、宇野皮膚科医院院長の漆畑先生にお話を聞きました。
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ウイルスによって発症部位が異なります
単純ヘルペスにはおもに次のようなものがあります
●口唇ヘルペス
「口唇ヘルペス」を引き起こすのは「単純ヘルペス1型(HSV-1)」です。口の周りに疱疹(ヘルペス)ができるのが特徴で、1カ所でも小水疱ができていたら口唇ヘルペスを疑いましょう。
発症のきっかけは、風邪や疲労、ストレスなど免疫力が低下したとき。特に夏場に海や山、ゴルフなどに出かけた直後や、冬場にスキーに行った後などに症状が出やすいのです。強い紫外線を受けた後に皮膚の免疫力が低下するからです。
治療は、症状が軽い場合は特に行いません。長引く場合は、皮膚科で抗ウイルス薬の飲み薬を処方してもらい服用します。抗ウイルス薬の塗り薬は、使用しているうちに耐性ウイルス(薬が効かないウイルス)が出現する可能性が高く、アメリカでは使用禁止となっています。
アトピー性皮膚炎がある人は、顔や首に起きた皮膚炎が完全に治っていないと、口唇ヘルペスや唾液中のウイルスが感染して、顔や首全体に微小な小水疱が多発するカポジ水痘様発疹症(ヘルペス性湿疹)になることもあるので注意が必要です。
●角膜ヘルペス
目の角膜上皮という角膜の一番外側の層で起こります。口唇ヘルペスと同じ「単純ヘルペス1型(HSV-1)」によって発症するヘルペスです。涙が出たり、物が見えにくかったり、まぶしく感じたりします。このような症状が現れたら、すぐに眼科を受診しましょう。
治療には抗ウイルス薬の点眼薬を使います。普段コンタクトレンズを使用している人は、治るまでは使用できません。
角膜ヘルペスには、ウイルスが角膜表面にとどまり比較的症状が軽い「上皮型」と、再発を繰り返すうちに悪化して、角膜内部にウイルスが侵入する「実質型」があります。実質型は視力が落ちたり、ぼやけて見えたり、充血したりします。失明の恐れもありますので、症状が現れたら、必ず受診することが大切です。
●性器ヘルペス
性器ヘルペスを引き起こすのは、おもに「単純ヘルペス2型(HSV-2)」です。大人になって初めての感染の場合、症状は強く性器や肛門、お尻などに小水疱が多発します。性器ヘルペスは性感染症の一種で、男女ともセックスで感染しますが、女性の方が感染する確率が高いのです。
女性の場合、感染してから2~10日で、高熱が出る、外陰部に多くの小水疱ができるなどの症状が出ます。小水疱がつぶれると皮膚や粘膜にただれが起き、排尿のときにしみてかなりの痛みを伴います。50~80%の人が1年以内に再発しますが、再発の頻度には個人差があります。再発の場合、症状は軽いのですが頻繁に再発すると患者を悩ませることになります。また、加齢とともに太ももやお尻に再発する臀部ヘルペスになることがあります。その場合は痛みを伴うため、帯状疱疹と間違えることがあるので注意が必要です。
症状が出たら、女性は皮膚科か婦人科を受診します。男性は皮膚科か泌尿器科です。治療には、抗ウイルス薬の飲み薬が効果的です。症状を悪化させないためには、低刺激性の石けんなどを使って患部を優しく洗い、清潔に保ちます。
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取材・文/松澤ゆかり
漆畑 修(うるしばた・おさむ)先生
東邦大学医学部卒業後、東邦大学医学部大橋病院皮膚科部長、東邦大学医学部客員教授などを経て2007年に宇野皮膚科医院(東京都世田谷区北沢)院長に就任。医学博士、皮膚科専門医、抗加齢(アンチエイジング)医学専門医、温泉療法医、サプリメントアドバイザー。著書に『痛みを残さない帯状疱疹 再発させない単純ヘルペス』(メディカルトリビューン)、『帯状疱疹と単純ヘルペスの診療』(メディカルレビュー社)などがある。