病気やけがをしたとき、それに関する用語(病名・症状など)の意味をそもそも知らなかった、なんてことはありませんか? また、時代の流れとともに「ADHD」「ノロウィルス」など新しい用語もどんどん現れています。
書籍『やさしい家庭の医学 早わかり事典』で、病気や健康分野の正しい知識を身につけ、いざというときに役立てましょう。
◇◇◇
前の記事「医療行為は点数制。1点=10円で計算する「初診料・再診料」/やさしい家庭の医学(57)」はこちら。
酸素や麻酔ガスを気管内に送り込む
「全身麻酔」
●全身麻酔法と局所麻酔法の併用
手術を受けるとき、術中や術後の痛みを鎮(しず)めるために用いられるのが麻酔です。麻酔には局所麻酔、部分麻酔などがありますが、頭蓋(ずがい)、顔面、心臓、胸部などの手術をする際に施されるのが「全身麻酔」です。
全身麻酔の際に使用される薬剤にはさまざまなものがあり、それらが併用されることによって安全に麻酔がなされるように工夫されています。たとえば、吸入麻酔薬、静脈麻酔薬、筋弛緩(きんしかん)薬、鎮痛(ちんつう)薬などです。このうち、鎮痛薬にはモルヒネなどが含まれています。
全身麻酔は吸入麻酔法(気管内挿管法・マスク麻酔法)と静脈麻酔法に分かれ、気管内挿管法では、はじめに静脈麻酔や吸入麻酔によって患者さんの意識を失わせたあと、筋弛緩薬を投与して全身の筋肉を弛緩させます。
筋弛緩薬が効いている間は自発呼吸ができませんので、人工呼吸が施されることになります。その後、患者さんの気管内にチューブを挿入(そうにゅう)して酸素や麻酔ガスを送り込み、肺(肺胞)から脳(中枢(ちゅうすう)神経)を麻痺(まひ)させます。
現在では、全身麻酔法と一緒に局所麻酔法を用いることによって、術後の痛みを軽減させる方法が取られることが少なくありません。
全身麻酔による手術においては、手術中に気管内のチューブが閉塞(へいそく)したり、呼吸が止まったり、血圧が下がったりなど、予期せぬことがらが起こることがありますので、それらを麻酔医が細心の注意を払って見守ることになります。
ただ、麻酔医の不足は深刻な問題となっており、当然のことながら麻酔医がいなければ手術はできません。現在では、麻酔医のスケジュールに合わせて手術日が決定されるのが実態のようです。
なお、世界ではじめて全身麻酔による手術を成功させたのは日本人で、華岡青洲(はなおかせいしゅう)という江戸時代後期の医師です。
1804年、乳がんの患者の手術をする際、チョウセンアサガオを主成分とした「通仙散(つうせんさん)≪麻沸散(まふつさん)≫」という薬を用いた青洲は、患者さんを眠らせることに成功。無事に乳房からがんを摘出することに成功したといいます。
次の記事「つらい症状を何とかする「対症療法」にはデメリットもある?/やさしい家庭の医学(59)」はこちら。
関連記事「うつ病を治すために必要な3つの療法 /"うつ"を寄せ付けない習慣(2)」はこちら。
中原 英臣(なかはら・ひでおみ)
1945年、東京生まれ。医学博士。ニューヨーク科学アカデミー会員。東京慈恵会医科大学卒業。77 年から2 年間、アメリカ(セントルイス)のワシントン大学にてバイオ研究に取り組む。その後、山梨医科大学助教授、山野美容芸術短期大学教授を経て、現在、新渡戸文化短期大学学長、早稲田大学講師。おもな著書に『ウイルス感染から身を守る方法』(河出書房新社)、『こんな健康法はおやめなさい』(PHP 研究所)、『テレビじゃ言えない健康話のウソ』(文藝春秋)などがある。
『やさしい家庭の医学 早わかり事典』
(中原英臣[監修]/KADOKAWA)
「糖尿病についてじつはよく知らない!」「高血圧と低血圧、そもそもの基準は?」「薬でよく聞くジェネリックってどんなもの?」そんな日頃よく体験する、健康や医療に関するギモンをこの1冊で解消! 病気、薬、医療用語ほか、知っておきたい健康知識125を集めました。索引付ですぐ引ける!