職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?
"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第24回目です。
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集団生活を意図的に体験する
かつての子どもたちは、学校から帰ると集団で外遊びをしていたものです。その集団には、いろいろな歳の子どもがいました。歳の異なる子どもたちが一緒に遊ぶなかで、年長の子どもは立てる、年少の子どもはいたわる、といった人付き合いの基本を学んでいったと、私の幼少期を思い出しても、そのように記憶しています。
翻っていまは、子どもたちが集団で遊ぶことが極端に少なくなっているのではないでしょうか。学校から帰れば塾が待っている。遊ぶ時間がないわけではないと思いますが、遊びの主流は一人でやるゲームでしょう。サッカーや野球などのスポーツチームに入っている子どもは集団生活を経験しますが、それも多数派とはいえないでしょう。
そして、この問題はなにも子どもにかぎった話ではありません。少子高齢化社会に伴い、誰にも看取られず、ひっそりと息絶える孤独死の問題をはじめ、「無縁社会」といった言葉まで誕生しています。インターネットの発達などの急激な技術革新によって、一人で生活を送ることが容易になり、血縁、地縁、社縁のつながりは薄れ、共同体は崩壊しています。
こうした現実も人間関係に悩む人が多い遠因になっている、と私は思っています。集団生活は人間関係で必要なことを身につけるための格好のトレーニングの場となります。禅の修行がまさにそれです。雲水(うんすい)(禅寺の修行僧)修行の期間は全員が寝起きをともにし、厳しい修行をこなします。もちろん、師もいれば先輩方もいますから、上下関係にも気を配らなければなりません。
そんな生活を送っていると、自然に規律ある人間関係のキモといったものが身についてくるのです。同期(同安居(どうあんご)ともいいます)の雲水とは支え合うという関係になります。人の資質はまちまちですから、たとえば、お経にしても覚えがいい人もよくない人もいるわけですし、坐禅も飲み込みが早い人、遅い人がいるのです。
遅れをとっている人に対しては、その復習にみんなが付き合い、一緒に課題を解決しようという空気が生まれます。そうしたことを通して、同期の雲水とのつながりは深まっていきます。実際、いまはめったに会うことはありませんが、会えばすぐにも打ち解けた雰囲気になります。肝胆相照(かんたんあいて)らす仲という関係がずっと続いているのです。集団生活のいちばんの効用だと思います。
そこで、あなたに、一つ提案があります。一度、田舎で集団生活を体験してみてほしいのです。
農村でも漁村でも、林業がさかんな地域でもいいですが、そこで地元の人の仕事の手助けをしながら集団生活をしてみるのです。期間は一週間くらいが目安でしょうか。
子どもやお孫さんがいる方であれば一緒に体験するのもいいでしょう。人間的に逞(たくま)しくなるでしょうし、忍耐強くもなる。長幼の序、他人への思いやり、といった人間関係の機微も理解できるようになって、人付き合いをうまくこなせるようにもなるはずです。相手が誰であれ、その接し方が心配りのあるもの、丁寧なものになる、といってもいいでしょう。とはいえ、「仕事があり、一週間は無理......」という人も多いでしょう。
その場合は「合宿」をおすすめします。これは手前味噌になりますが、日本各地には修行体験ができる禅寺もあります。一日体験の短いものから、三泊四日程度のもの、さらにはそれ以上の日程のものなど、いろいろなコースがあるようですから、参加してみるのもいいのではないでしょうか。
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1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある
『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)
禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。