認めるべきところは認め、自分を貫く。迎合しない/枡野俊明(8)

認めるべきところは認め、自分を貫く。迎合しない/枡野俊明(8) pixta_13163087_S.jpg職場、恋愛関係、夫婦関係、家族、友人...。毎日自分以外の誰かに振り回されていませんか?

"世界が尊敬する日本人100人"に選出された禅僧が「禅の庭づくりに人間関係のヒントがある」と説く本書『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』で、人間関係改善のためのヒントを学びましょう。今回はその第8回目です。

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大切なのは「嫌われる勇気」

人間関係でつまずいた経験があると、その後の人間関係で、誰しも多かれ少なかれ恐怖心を抱いてしまうものです。嫌われたくない。否定されたくない。拒まれたくない。怒られたくない......。そんな思いでいると、嫌われないために、他人と意見の相違があっても言い出せなかったり、納得していないのに肯定したり、違うと思っても賛同したり、といったことになります。これはあきらかに無理をしています。そんなことが続けば、その人間関係に窮屈さを感じるようにもなるでしょう。

では、どうすればいいのでしょうか?

その答えは、迎合しないことです。
もちろん、必要もないのに相手と張り合ったり、対立したりする必要はありません。同じ意見をもったのであれば、素直に賛同すればいいですし、共感できれば、それを伝えればいい。ほんとうは違う思いや考えをもっているのにもかかわらず、相手の機嫌を取るために褒めたり、傷つけたつもりもないのにとりあえず謝ったりするのは、あとあと自分を苦しめることになります。

会社や学校、ママ友のコミュニティなど何らかの組織に所属していると、八方美人、イエスマン、ご機嫌取りをする人々がいて、人間関係を上手に築いているように思うかもしれません。

しかし、それはその場しのぎの人間関係でしかないのです。迎合しないでいると、敵をつくってしまうと思うかもしれませんが、はたしてそうでしょうか。相手に合わせて自分を押し殺している状態を相手が望んでいるのであれば、そのような相手はあなたにとってほんとうに人間関係を結ぶべき人でしょうか。自分を押し殺しているあなたに、申し訳なさを感じることもない人が、あなたにとって真に必要な存在でしょうか。

おそらく、そうではないでしょう。また、ほんとうに必要な人であれば、自分が偽りの姿で接している、そのことに、あなた自身が後ろめたさを覚えると思うのです。その場しのぎの迎合で相手に都合のいい存在になること、あるいは逆にそんな存在にさせることが、人間関係を心地よいものにするとはとても思えません。

 

気高さにこそ信念が宿る

迎合しないで、自分の意見に反対する人を疎ましく思う人もいるでしょう。短絡的に怒りをぶつけてくる人もいるかもしれません。しかし、いつも相手に迎合しているあなたの言動に信頼を寄せる人は、はたしているでしょうか。

人間関係でいちばん大切なのは信頼です。迎合しないことで、疎ましく思われたり、怒りを買ったとしても、信頼が得られたらそれでいい。そうシンプルに考えてほしいのです。意見がぶつかり合っても迎合しない姿に信頼を寄せる人は必ずいます。そんな人となら、心地よい人間関係が築けます。

相手に迎合しないこと。組織の主流の意見に迎合しないこと。それは、相手を否定することではありません。人の価値観は多様ですから、ぶつかり合うのは必然なのです。認めるべきところは相手を認め、しかし、自分を貫く。それが迎合しないということでしょう。

協調性をもつことは大切なことですが、異なる意見を発言しないことが協調性ではありません。異なる意見をもったのであれば、それをきちんと伝える。しかし、組織は上意下達で動きますから、決められた方向性にはしたがう。それがほんとうの協調性のある姿です。

迎合しないことと孤立は違います。前者は揺るがない自分をもっていること、といってもいいでしょう。周囲がその人に感じるのは威厳であり、気高さであり、確たる存在感です。そのどれもが、人としての魅力だと私は思います。

  

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枡野俊明(ますの・しゅんみょう)

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。主な著書に『禅シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『怒らない 禅の作法』(河出書房)、『スター・ウォーズ禅の教え』(KADOKAWA)などがある

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『近すぎず、遠すぎず。』
(枡野俊明/KADOKAWA)


禅そのものは、目に見えない。その見えないものを形に置き換えたのが禅芸術であり、禅の庭もそのひとつである。同様に人間関係の距離感も目に見えない。だからこそ、禅の庭づくりに人間関係のヒントがある――「世界が尊敬する日本人100人」に選出された禅僧が教える、生きづらい世の中を身軽に泳ぎ抜くシンプル処世術。

 
この記事は『近すぎず、遠すぎず。他人に振り回されない人付き合いの極意』からの抜粋です

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