60代以上の世代が抱えている「持病」について、最前線の対策法を専門家に聞く連載「持病対策最前線」。今回は「歯周病」の2回目です。
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前の記事「歯周病は日本人の「歯を失う理由」第1位! その原因は?/歯周病」はこちら。
保険適用の新薬「リグロス」が登場
従来の歯周病治療では、歯垢の除去や外科手術によって歯周病の進行をくいとめることはできても、失われた歯周組織を元に戻すことはできませんでした。ところが近年「歯周組織再生治療」として失われた歯周組織の再生をうながす治療の開発が進み、GTR法(歯周組織誘導法)とエムドゲインという2つの治療が外科手術に加えて用いられるようになってきました。
しかしGTR法は患部に人工膜を挿入し、歯肉の侵入を防いで歯槽骨の再生を誘導する治療のため、通常の外科手術よりも難しい手術になってしまいます。エムドゲインは歯槽骨に塗ることで失われた骨の再生をうながす薬剤ですが、保険適用外のため、基本的に自費負担での治療となっていました。
これら「歯周組織再生治療」に新しく登場したのが、日本発の新薬「リグロス」です。もとは床ずれなどの治療に使われていた薬で、血管の新生を促進し、減少した歯槽骨の再生を助ける効果があります。2016年11月に保険適用となり、12月から販売が開始されました。施術はエムドゲインと同様ですが、リグロスは保険適用のため、自己負担は全体の3分の1以下、価格は約2万円からになります。
ただしいずれの治療も、歯周組織の状態によっては行えない場合があります。施術の判断は専門医にゆだねた方が良いでしょう。日本歯周病学会では、歯周病専門医の一覧を公開しています。ホームページや電話で確認してみてください。
従来から行われている一般的な歯周病手術
炎症組織を取り除いてプラークや歯石を徹底的にきれいにします。病巣を除去できますが、すでに失われた歯周組織を元に戻すことはできず、歯肉を切除するために術後はやや歯茎が下がってしまいます。
血管、骨の再生をうながす最新薬
『リグロス/エムドゲイン』
手術後に、歯周組織が失われている部分に直接塗布してから患部を縫合します。エムドゲインは骨の細胞に働きかけ、リグロスは骨に栄養を運ぶ血管の新生をうながし、骨の再生を促進します。
歯周組織が再生する環境を整える『GTR法』
手術で病巣を取り除いた後、歯周組織が失われた部分に人工膜をかぶせて縫合します。歯肉の侵入を防いで歯周組織の再生を誘導する治療です。手術が難しくなるため、リグロスなどの方が一般的。
取材・文/高橋星羽(デコ) イラスト/矢島慶子
宮崎真至(みやざき・まさし)先生
日本大学歯学部付属歯科病院病院長。日本大学歯学部卒業、日本大学大学院修了。歯学博士。インディアナ州立大学歯学部留学後、日本大学歯学部教授などを務める。保存修復学の第一人者として、テレビ出演や講演会など幅広い活動を行っている。