1年脳を使わない暮らしをすると脳の機能はかなり低下する/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方

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「すぐにイライラしてしまう」「なんとなくモヤモヤする」...そんな「負の感情」との付き合い方に悩んでいませんか? 
年齢を重ねれば誰もが感情のコントロールが難しくなるもの。「負の感情」をコントロールし、スッキリ生き生きと生きるために、脳科学や心理学の知見によって得られた効果のある実践的な方法を、書籍『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』から学んでいきましょう。

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感情がコントロールできているか常にチェックする

家庭においても会社などの業務においても、中高年は中堅として頼りにされ、かつ活躍していることと思います。ただ、仕事では中間管理職として上司と部下の両方に気をつかう必要がありますし、家庭では夫婦の問題、子どもの進学、親の介護などが出てきて、問題が多様化かつ複雑化する時期であるといえます。

この時期をうまく乗り切るいちばんのポイントは感情に支配されず、現在の状況を冷静に観察して対応することです。

はじめに大事な点は、体力の状態を確認しておくことです。体力の衰えについては、興味深いデータがあります。
私が以前、ある本で紹介した「最大酸素摂取量」についての研究結果です。最大酸素摂取量とは1分間に摂取できる酸素の最大量を示したもので、年齢によっておおよその目安があります。一般に最大酸素摂取量が多い人ほど体力がある、つまり疲れにくいということが言えます。最大酸素摂取量は、20歳では2.6リットルですが、加齢とともに徐々に減少していき、70歳では何と1.8リットルと大幅に減少します。

ところが、ウォーキングやジョギングなどの運動を継続的に行っている人は、60歳でも20歳程度の最大酸素摂取量が保たれることがわかっています。
さらに、マラソン大会に出るような人は、20歳のジョギング程度の運動しかしない人ぐらいの酸素摂取量が維持されるのです。ちなみに50歳で運動をはじめてもこの値は上昇した状態を維持しつづけます。

おそらく、このことは体力だけでなく、脳にもいえるだろうというのが、私が長年高齢者を観察したうえでの見立てです。
私の観察では、脳をよく使っている人はたしかに脳は萎縮してはいるのですが、知的な能力は保たれています。脳の萎縮状態と知的能力は必ずしも比例的な関係にないということです。ということは、脳がたとえ萎縮してしまったとしても認知症のような病的なものでなければ、知的能力を維持・発展させることは可能だということです。

気をつけるべき問題は、1年も脳を使わない暮らしをしていると、かなりの程度、脳の機能が低下してしまうということです。
つまり、意欲低下によって、この脳の機能低下がもたらされてしまうのです。
意欲低下は表面に現れやすいのですが、それが前頭葉の機能の低下によるものであれば、実はその水面下で感情のコントロール機能が蝕まれている危険性もあります。

ですから、中年以降は長期のスパンで前頭葉を刺激し続けることで、この弊害を防ぐことが可能と考えられます。それを通じて「脳力」を維持・発展させ、物事の健康的な判断ができるようになります。

中年以降は、仕事で管理職などの役職に就く人が多くなります。感情コントロールが上手く機能しなかったり、固定観念に縛られた判断をしたりするため部下を不当に評価するといったことも起こります。これは前頭葉の機能低下によるものなのですが、そのために無能な管理職の烙印を押されることも珍しくありません。ご自身で振り返ってみて、その懸念がないかを自問自答して確認してみることです。ポイントは自分がいつも冷静で合理的な判断ができているかどうかです。

もし感情に左右された評価をしていたと思えることがあったなら、脳の老化が進んでいると認識し、もう少し多面的な判断を心がけるのが望ましいでしょう。少なくとも、その自覚をもてるということは、脳がまだまだきちんと機能しているということで、認知症の人が自分を認知症と思わないように、前頭葉の働きが悪い人は、自分の独善的な考えを独善的と思うこともできないのですから。

 

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和田秀樹(わだ・ひでき) 

1960年、大阪府生まれ。精神科医。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て独立。エグゼクティブ・カウンセリングを主とする「和田秀樹こころと体のクリニック」を設立し、院長に就任。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)、川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書に『感情的にならない本』(新講社)ほか多数。

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『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』

(和田秀樹/KADOKAWA)

感情の不調は"脳"で治す! 医師にしてベストセラー作家が教える、誰でもできる習慣術。「笑い」を解放することが前頭葉を刺激する、「"こだわり"にこだわらない」がポイント、競輪競馬やゴルフ、マラソンの向上心は脳にいいなど、脳科学や心理学の知見によって得られた「効果のある」「実践的な方法」を一挙に紹介!

 
この記事は書籍 『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』からの抜粋です

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