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「すぐにイライラしてしまう」「なんとなくモヤモヤする」...そんな「負の感情」との付き合い方に悩んでいませんか?
年齢を重ねれば誰もが感情のコントロールが難しくなるもの。「負の感情」をコントロールし、スッキリ生き生きと生きるために、脳科学や心理学の知見によって得られた効果のある実践的な方法を、書籍『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』から学んでいきましょう。
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前の記事「感情がコントロールできなくなる3つの要因/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(4)」はこちら。
脳細胞が死滅し、脳自体が萎縮する
私は精神科医として、X線CTスキャンやMRIといった脳の断層写真が取れる機械を用いて、これまでに4000人くらいの患者さんの脳を見てきました。明らかな症状がなくても小さな脳梗塞がどの程度あるか、ほかに脳のどこかに病気がないかを調べるためです。一見、うつ病や認知症のように思えても、他の病気によってそれらの症状と似た症状が現れる場合があるからです。
4000枚もの人間の脳の写真を見て気づいたのは、年をとるほど脳が小さくなるというのは自然なことなのだということです(もちろん、以前からわかっていたことですが)。若い人と高齢者を比べると、明らかに後者のほうが脳が小さくなっています。
これは脳細胞が死滅することによって脳自体が物理的に萎縮するからです。つまり自然な老化現象のひとつということができます。
多くの脳画像を見ているうちに、萎縮具合でおおむね年齢を言い当てることができるようになり、年齢によって萎縮する平均的な脳の状態を把握することで、年齢の割に萎縮具合が大きいか小さいかもわかるようになっていきました。
その後、さまざまな論文に当たった結果、興味深い研究を見つけました。
それはシェーファーという神経病理学者が、認知症でない平均77歳の高齢者10人の脳と、19~28歳の若者5人の脳を比べた研究です。
それによると、前頭極という、前頭葉の中でも自発性、意欲を司る脳の場所の萎縮が最も激しいということがわかりました。
具体的に言えば、神経細胞の減少率が、後頭葉では13%、海馬では約20%であるのに対して、前頭葉の前頭極は28%、同じく前頭葉の運動前野と呼ばれる部分は22%であったのです。この結果からわかることは、「脳は前頭葉から衰える」ということです。
後頭葉は視覚領という、視覚に関する領域があり、ここが部分的に壊れると目には見えていても空間認知ができなくなったり、文字の意味がわからなくなったりします。あるいは、半盲といって、視野の一部が見えなくなります。海馬という場所は記憶を司るといわれていて、とくに辞書をつくるような機械的な記憶である「意味記憶」や経験をともなう記憶である「エピソード記憶」を担っています。また、運動前野は創造性、感情のコントロールを司り、前頭極は自発性、意欲、気持ちの切り替えを司る場所と考えられています。
ということは、視覚情報の認知が悪くなったり、「物覚えが悪くなった」といった問題が現れるよりも先に、まず意欲の減退や気持ちの切り替えがしにくくなるといったことが起こるということです。
脳は前頭葉から縮んでくるというのは、私が多くの画像を見てきた印象と一致したので、これは納得できることです。
もちろん、個人差はありますが、「イライラすることが多くなった」「モヤモヤが消えない」といった心の状態も脳の老化によるものなのかもしれないのです。
70代の後半で神経細胞が3割近くも減少しているのであれば、早い人であれば40代ですでにかなり減っている可能性があるのです。
次の記事「「頑固ジジイ」になってしまうのは前頭葉の衰えから/「感情に振りまわされない人」の脳の使い方(6)」はこちら。
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。精神科医。1985年、東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て独立。エグゼクティブ・カウンセリングを主とする「和田秀樹こころと体のクリニック」を設立し、院長に就任。国際医療福祉大学大学院教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)、川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。著書に『感情的にならない本』(新講社)ほか多数。
『「感情に振りまわされない人」の脳の使い方』
(和田秀樹/KADOKAWA)感情の不調は"脳"で治す! 医師にしてベストセラー作家が教える、誰でもできる習慣術。「笑い」を解放することが前頭葉を刺激する、「"こだわり"にこだわらない」がポイント、競輪競馬やゴルフ、マラソンの向上心は脳にいいなど、脳科学や心理学の知見によって得られた「効果のある」「実践的な方法」を一挙に紹介!