認知症による幻覚や見間違えは、私たちには見えなくても本人には実際に見えています
そこにないものが見える「幻視」や、見間違えたりする「錯視」は、レビー小体性認知症の代表的な症状です。
これは、視覚野のある後頭葉の血流障害や萎縮が原因で、実際には存在しない人が見えたり、小動物が見えたり、光景が見えたりなど、さまざまなパターンがあります。
家庭では、丸まったタオルを犬や猫と見間違える、ハンガーにかかった服が人に見える、コンセントのコードが象の鼻に見える、壁の模様が人の顔に見えるといった例が多く聞かれます。
健康な人でも、疲れていると見間違えることがありますが、落ち着いてしっかりと見れば対象を正しく認識できるものです。
ところが、レビー小体性認知症の人は、瞬時に見えたり、持続して見えたりするので、見間違えの訂正が難しいのです。
周囲の家族にとっては、突然、今までしっかりしていた人が誰もいない空間に話しかけたり、タオルを動物に見間違えて怯えたりするので、とても驚いてしまうと思います。
とはいえ、ご本人には、幻覚や錯覚がはっきりと見えているので、「そんなものはない」と否定しても意味がありません。
そのため、まずは、幻視や錯視を否定するのではなく、「本人には実際に見えている」という認識を持つことが重要です。
問題なのは、幻覚・見間違いによって恐怖心や不安が増大し、認知症の症状が悪化する可能性があることです。
そのため、家族や介護する人は、幻視や錯視が起こったら、「怖いですね」「嫌ですね」とご本人の気持ちを言葉にして共感する姿勢を持って対応するようにしてください。
そのさい、優しく手に触れるなどして接すると、不安の軽減につながります。
錯覚がある場合は、対象物に近づいて直接手で触れてみると、正しく認識できることがあります。
このほか、一度、別のところに目を向けると幻覚が消えることがあります。
対応のポイント
●対象に近づいて直接、手で触れると、正しく認識できるようになることがある。
●幻覚を怖がっているときは、「怖いですね」「嫌ですね」とご本人の気持ちを言葉にして共感するようにしよう。
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