ええ!? 壁に向かって話かける母...なんで?/認知症の人が見ている世界

認知症による幻覚や見間違えは、私たちには見えなくても本人には実際に見えています

そこにないものが見える「幻視」や、見間違えたりする「錯視」は、レビー小体性認知症の代表的な症状です。

これは、視覚野のある後頭葉の血流障害や萎縮が原因で、実際には存在しない人が見えたり、小動物が見えたり、光景が見えたりなど、さまざまなパターンがあります。

家庭では、丸まったタオルを犬や猫と見間違える、ハンガーにかかった服が人に見える、コンセントのコードが象の鼻に見える、壁の模様が人の顔に見えるといった例が多く聞かれます。

健康な人でも、疲れていると見間違えることがありますが、落ち着いてしっかりと見れば対象を正しく認識できるものです。

ところが、レビー小体性認知症の人は、瞬時に見えたり、持続して見えたりするので、見間違えの訂正が難しいのです。

周囲の家族にとっては、突然、今までしっかりしていた人が誰もいない空間に話しかけたり、タオルを動物に見間違えて怯えたりするので、とても驚いてしまうと思います。

とはいえ、ご本人には、幻覚や錯覚がはっきりと見えているので、「そんなものはない」と否定しても意味がありません。

そのため、まずは、幻視や錯視を否定するのではなく、「本人には実際に見えている」という認識を持つことが重要です。

問題なのは、幻覚・見間違いによって恐怖心や不安が増大し、認知症の症状が悪化する可能性があることです。

そのため、家族や介護する人は、幻視や錯視が起こったら、「怖いですね」「嫌ですね」とご本人の気持ちを言葉にして共感する姿勢を持って対応するようにしてください。

そのさい、優しく手に触れるなどして接すると、不安の軽減につながります。

錯覚がある場合は、対象物に近づいて直接手で触れてみると、正しく認識できることがあります。

このほか、一度、別のところに目を向けると幻覚が消えることがあります。

対応のポイント

●対象に近づいて直接、手で触れると、正しく認識できるようになることがある。

●幻覚を怖がっているときは、「怖いですね」「嫌ですね」とご本人の気持ちを言葉にして共感するようにしよう。

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【次回】着替えを手伝ったら、ドンッ! 急に激怒する父/認知症の人が見ている世界

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認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています

 

川畑智(かわばた・さとし)
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組む。

 

遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
聖路加国際大学病院臨床教授、元国立長寿医療研究センター長。認知症や医療介護制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深い。

 

浅田アーサー(あさだ・あーさー)
マンガ家。

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『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』

(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)

認知症って、何もかもがわからなくなるわけではないの? 認知症の人が見ている世界を知り、「なぜ?」を解決できると、介護はもっとラクに。認知症ケアの第一人者がひも解いた、マンガでわかる介護メソッドです。

※この記事は『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)からの抜粋です。
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