認知症の人は常に「記憶しよう」「覚えていたい」とがんばっています
認知症で最も多いのが、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症は、まず、脳の海馬という領域の萎縮から始まります。
海馬とは、脳に入ってきた情報を一時的に保持して、必要な情報を取捨選択する部位です。
海馬が萎縮すると短期記憶が苦手になって、もの忘れが増えたりもの覚えが悪くなったりします。
短期記憶に障害が起こると、同じことをくり返しいったり聞いたりすることが多くなります。
本人は、なかなか覚えられなかったり、すぐに忘れたりしてしまうので、「あのことを聞かなければ」「あの話はしただろうか」と常に不安な気持ちでいます。
そのため、家族や周囲の人に確認せずにはいられないのです。
中には、予定や検査結果など覚えておくべき情報をまとめたメモが、まるで辞書のように分厚くなっている方もいます。
つまり、何度もいったり聞いたりするのは短期記憶の障害が本当の原因ではありません。
「ちゃんと覚えていたい」「周囲に迷惑をかけたくない」という、人として当然の気持ちの表れです。
認知症の人は、私たち以上に記憶することを努力しています。
忘れることが不安で、常に「記憶しなければ」と意識しています。
不要な情報まで覚えようとして、頭がいっぱいになることも少なくないのです。
認知症でない人は、心に余裕がないと、このケースのように「何度いったらわかるの?」「この前、いったでしょ?」という対応をしてしまいがちです。
認知症でない人は、さほど意識せずとも必要な情報は覚えられるし、指摘されれば思い出せるので、記憶することにさほど不便も苦手もないためです。
認知症の世界では、短期記憶の障害で本人が常に不安を抱えています。
その不安に寄り添うことを忘れないでください。
同じ話をされた場合も、ていねいにもう一度同じ話を聞けば本人は安心するかもしれません。
同じことを聞かれても、「私が覚えておくから大丈夫よ」といえば、本人の安心につながることも考えられます。
対応のポイント
●同じことを何度も聞かれたときは、説明のいい回しを変えると記憶として定着することがある。
●本人の「覚えていたい」という気持ちを尊重し、初めて伝えるように説明しよう。
●「私が覚えておくから大丈夫」というと、安心してもらえることがある。
【次回】「ここはどこですか?」って、いつもの送迎バスですけど・・・/認知症の人が見ている世界
認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています