「生きづらさ」を個人の責任で終わらせない。社会全体で理解すべき「ACEs」の負担構造

『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』 (和田 一郎/KADOKAWA)第5回【全7回】

仕事、人間関係、あるいは「これからの人生」へのなんとなくとした不安......。あなたが抱えるその「生きづらさ」の根源には、子ども時代の逆境体験、ACEs(エース)が潜んでいるかもしれません。子ども時代に家庭内で感じた寂しさや傷つき、張り詰めた空気などの「過去の体験」が、大人になった現在の心や体、そして日々の選択に、知らず知らずのうちに影を落としていることがあるのです。本書『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』(KADOKAWA)は、近年のデータサイエンスで明らかになった事実をもとに、ACEsがどのように現在の心身、そして人生の選択に影響を与えているかを解き明かします。今回はこの書籍の中から、少し肩の力を抜いて、「これからの人生をラクに生きるためのヒント」をお伝えします。

※本記事は和田 一郎 (著)による書籍『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』から一部抜粋・編集しました。

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「生きづらさ」を個人の問題で終わらせない

ACEs(小児期逆境体験)による困難の連鎖は、社会的損失につながる

ACEsによる「困難の連鎖」は、本人のつらさや家庭内の問題だけで終わりません。社会全体にも大きな損失として跳ね返ってきます。

まず、ACEsスコアが高いほど成人期の健康問題や健康に悪い行動(たとえば過度の飲酒や喫煙など)をしやすいことが、複数研究をまとめた分析で示されています。つまり、ACEs は「心の問題」だけでなく、身体の病気や生活習慣にも関わりうるということです。

次に、社会的損失とは「医療費が増える」だけではありません。

学校に行きづらくなる、仕事が続きにくくなる、収入が不安定になる、といった形で、生活全体に影響が広がることがあります。

こうした影響は、医療だけでなく、福祉、教育、労働、ときには司法(犯罪や被害への対応)など、いくつもの領域にわたって費用や損失を生みます。

ヨーロッパと北アメリカのデータを用いた研究では、ACEsに関連する健康問題が社会にもたらす1年あたりの費用が非常に大きいこと、そしてその費用の多くが複数のACEsを抱える人たちに集中しやすいことが示されています。

これは、ACEs の問題が「少数の例外的なケース」ではなく、社会全体の負担構造として理解すべき課題であることを意味しています。

日本でも、子どもの虐待が社会に与える費用を推計した研究があります。私が行った研究では、虐待対応に必要な費用などの直接的な支出に加えて、虐待がその後の人生に与える影響による損失(将来の損失など)も含め、日本の子ども虐待の社会的コストが少なくとも年額約1・6兆円に達すると推計しました。

ここで重要なのは、この種の費用が「1度きり」ではなく、毎年繰り返し生じうるという点です。つまり、見えにくい形で社会が継続的に支払い続けているコストだと考えられます。

以上を踏まえると、ACEsへの対応は、倫理的に大切であるだけでなく、社会の損失を減らすという意味でも重要だと言えます。言い換えれば、ACEsの予防や早期支援は「あとから高い代償を払わないための投資」として位置づけることができるのです。

 
※本記事は和田 一郎 (著)による書籍『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』から一部抜粋・編集しました。
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