『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』 (和田 一郎/KADOKAWA)第2回【全7回】
仕事、人間関係、あるいは「これからの人生」へのなんとなくとした不安......。あなたが抱えるその「生きづらさ」の根源には、子ども時代の逆境体験、ACEs(エース)が潜んでいるかもしれません。子ども時代に家庭内で感じた寂しさや傷つき、張り詰めた空気などの「過去の体験」が、大人になった現在の心や体、そして日々の選択に、知らず知らずのうちに影を落としていることがあるのです。本書『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』(KADOKAWA)は、近年のデータサイエンスで明らかになった事実をもとに、ACEsがどのように現在の心身、そして人生の選択に影響を与えているかを解き明かします。今回はこの書籍の中から、少し肩の力を抜いて、「これからの人生をラクに生きるためのヒント」をお伝えします。
※本記事は和田 一郎 (著)による書籍『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』から一部抜粋・編集しました。

ACEsとは何か
ACEsとは、「Adverse Childhood Experiences」の略で、日本語では「小児期逆境体験」と訳されます。子ども時代(おおむね18歳未満)に経験したつらい出来事が、その後、大人になってもその心と体の健康、学業、仕事、家族関係、生活水準などに長く影響しうるという考え方のことです。
ACEsの考え方が広まるきっかけになったのは、アメリカで1万7千人以上の成人を対象に行った大規模な追跡研究です。
この研究を行った医師のV・J・フェリッティたちがこのことに気づいたのは、アメリカ・サンディエゴでの肥満治療プログラムで見られたある出来事でした。当時、フェリッティは、「カイザー・パーマネンテ」という、自社で病院と医療保険の両方を運営する巨大な医療組織の予防医学部門の責任者でした。
アメリカは日本と違って国民皆保険制度がないため、各自が民間保険に加入します。そうした医療保険を提供する組織では、保険加入者ができるだけ健康でいることが、医療費支出を抑えることにつながるため、保険加入者に対してさまざまな健康プログラムを提供しています。
その1つが減量(ダイエット)のプログラムです。1980年代半ばにその組織で行われていたダイエットプログラムでは、食事制限や運動療法などを行っていたのですが、毎年かなりの割合の参加者が途中でやめてしまうという問題が続いていました。
データによると、参加者の半数がやめてしまう年もありました。
そこでカルテを調べてみると、やめていった人たちは「減量に失敗したから脱落した」のではなく、むしろ多くが順調に減量できていたのです。
ここからフェリッティは、「成功しているのに、なぜ自ら治療をやめてしまうのか」という疑問を持ち、脱落者286人に対して詳細なライフヒストリーを尋ねる面接を行ったのです。
この面接からわかったのは、脱落者には「子ども時代の性的虐待や、著しく機能不全な家庭に育つなどの深刻なトラウマを抱えている人が非常に多い」という事実でした。
その後、こうした「子どものころのいわゆる適切ではない経験が、将来に影響を及ぼす」という研究が数多く実施されてきました。
その結果、今ではアメリカの健康施策の中核的機関である米国疾病対策センター(CDC)も、ACEsを「さまざまな身体疾患・心の病気・社会的不利益の背景にある重要な要因」と位置づけ、予防と早期対応の柱の1つにしています。
このようにACEs とは、単なる「つらい思い出」ではなく、「子ども時代に何が起きたか」がその後の健康、生活、医療費、さらには世代間連鎖にまで影響しうることを示す、科学的な知見でもあるのです。
一方で、逆境体験があっても、その後温かい人間関係や居場所を得るといったポジティブな経験や、トラウマに配慮した支援によって影響を和らげることができる、という研究も増えています。








