『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』 (和田 一郎/KADOKAWA)第1回【全7回】
仕事、人間関係、あるいは「これからの人生」へのなんとなくとした不安......。あなたが抱えるその「生きづらさ」の根源には、子ども時代の逆境体験、ACEs(エース)が潜んでいるかもしれません。子ども時代に家庭内で感じた寂しさや傷つき、張り詰めた空気などの「過去の体験」が、大人になった現在の心や体、そして日々の選択に、知らず知らずのうちに影を落としていることがあるのです。本書『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』(KADOKAWA)は、近年のデータサイエンスで明らかになった事実をもとに、ACEsがどのように現在の心身、そして人生の選択に影響を与えているかを解き明かします。今回はこの書籍の中から、少し肩の力を抜いて、「これからの人生をラクに生きるためのヒント」をお伝えします。
※本記事は和田 一郎 (著)による書籍『大人になっても消えない重荷を抱える人のための 生きづらさの手放し方』から一部抜粋・編集しました。

「生きづらさ」の根源は、あなたの性格のせいではない
病気・低学歴・失業・貧困・孤立... ...困難の連鎖とACEsの関係
社会人となって就職したものの、自分の納得する学歴ではなく、就職先もそのせいで行きたいところではない。働いてみても周りや同期がすごく見えて、なんだか不安になる。仕事をやっていても充実感もなくいつの間にかうまくいかなくなり、休みがちになったり、退職したりしてしまう。収入が不安定になり、おなかも減って栄養を取らなければいけないのだが、そんなことを考えるよりもなんだかSNSを見たりして時間を過ごすことに没頭してしまう。
そんなことをしていると、手持ちのお金も尽きてきたので、日雇いやアルバイトなどの仕事をやってみるも、お客さんや上司に怒られたりして、なんだか嫌になってやめてしまう。どんどん手持ちが減ってきて、親にも頼れず、役所に相談して、生活保護などの福祉を受けることになった。
さらに歳を取るごとに体に病気が見つかり、通院が増え、とても働けない状況になった。医師からは、「こんな生活をしていると短命になるよ」と言われた―。
これを読んで、「これは私のことだ」と感じた人もいるのではないでしょうか。どれか1つに当てはまるだけでなく、複数当てはまる人もいるかもしれません。
こうした困難が重なっているとき、多くの人は「自分の努力不足だったのではないか」「自分の性格や能力に問題があるのではないか」と考えがちです。
しかし、世界中で行われてきた研究をていねいに読み解くと、こうした困難に直面している人たちには、別の共通点が見えてきます。
それは、「子どものころに育った環境」です。家庭の中での暴力や虐待、激しい言い争い、親のアルコール・薬物問題、親の精神疾患や自殺企図、極端な貧困や養育放棄......。こうした小児期の逆境体験は、Adverse Childhood Experiences= ACEs(エース)」と呼ばれています。
こうした経験が、大人になってからの病気・学歴・仕事・貧困・寿命にまで長く影響しうることが、1990年代からの研究で明らかになってきました。
この関係性がわかってから、アメリカをはじめとする複数の国で、何万人もの人を対象とした長期の追跡調査が行われてきました。
その結果明らかになったのは、「逆境的な経験の数が増えれば増えるほど、その後に本人がこうむる不利益も増える」ということです。
子どものころの逆境的な経験(ACEsについては次節で詳しく説明します)がゼロの人と比べて、4つ、5つと重なっている人では、次のような傾向が報告されています。
○心身の慢性の病気が増える
○うつ病や不安障害、依存症などの心の病が増える
○高校・大学の中退が増え、最終学歴が低くなりやすい
○失業や不安定な仕事が多くなり、生涯収入が低くなりやすい
○病気や心の不調で働けなくなり、障害年金や障害退職に至る人が増える
○生活保護など公的扶助に頼らざるを得ない割合が高くなる
○50代など比較的若い時期に亡くなる人が増える
これらは一部の研究に限った結果ではなく、複数の国・複数の調査をまとめて検討した研究でも、ほぼ同じ結果が確認されています。
これを見ると、自分の人生に絶望しそうになるかもしれませんが、これは「子どものころに逆境的な経験をした人は必ずこうなる」という意味ではありません。
同じような経験をしても、支えてくれる大人に出会えた人、学校や地域で理解のある環境に恵まれた人、自分にあった治療や支援につながれた人は、その後安定した仕事を得て家庭を築き、健康に暮らしている場合ももちろん数多くあります。
これらの研究が示しているのは、あくまで「平均的に見たときに、リスクが高くなる」という統計的な傾向です。
また、もう1つ重要なことは、「自分はそうした支えに恵まれなかったからもうだめだ」と思う必要もないということです。
もし仮に、今あなたが苦しい状況に置かれていたとしても、これから人生をよい方向に変えていくことは十分可能です。
そのための方法を、本書の後半で紹介していきますので安心してください。
そして、こうした研究は、皆さんにどんなメッセージを伝えようとしているのでしょうか。それは、大人になってからの病気や貧困、早期退職や早死を、「その人の努力不足」「性格の弱さ」だけで説明するのは適切ではない、ということです。
子どものころの環境や経験という、本人にはどうすることもできなかった条件が、その後の人生の土台に深く関わっているからです。
「何が悪かったのか」を個人にだけ求めるのではなく、「何が起きてきたのか」「どのような環境が人を追い詰めるのか」、そして「どうやって回復して生きていくか」を、科学的な知見にもとづいて一緒に考えていくこと。それが、本書の出発点です。








