40代半ばを過ぎて妙にイライラすると感じたら、更年期が始まっているかもしれません。更年期は、思春期と並ぶホルモンの大変動期で、疲労や肩こり、のぼせなど、これまで感じなかったさまざまな不調が起こりやすくなります。ひどくなると、更年期障害と呼ばれ、日常生活に支障をきたすこともあります。
この大変動期をできるだけ心地よく過ごすにはどうしたらよいのか、飯田橋レディースクリニック院長の岡野浩哉先生にお伺いしました。今回はその9回目です。
前の記事「更年期障害の2大療法、ホルモン補充療法と漢方療法/更年期障害(8)」はこちら。
女性ホルモンを補い、症状を緩和
ホルモン補充療法(以下、HRT)は、更年期(閉経をはさんだ前後約10年間のことで、卵巣機能が衰えて妊娠できない体へと変化する移行期。日本人女性の多くは50歳前後で閉経するため、一般的には45~55歳が該当)を迎えて減少したエストロゲンを薬で補う治療法です。エストロゲンの欠乏によって起こるさまざまな症状を軽減させ、更年期障害の根本的な治療法として期待されています。
「日本人の場合、 "ホルモンを補う"ということに抵抗感を持つ人が、まだまだ少なくありません。ですが、現在は、治療で補うエストロゲンは天然型と言って、みなさんが若い頃に自分の卵巣から分泌していたのと同じものであり、量は半分程度。症状を抑えるのに必要な量のみです。安全性が高く、効果も出やすいので、つらい症状がある人は検討をおすすめします。また、HRTでの治療は保険適用で自己負担も少なく始められるのも安心ですね」とは、飯田橋レディースクリニック院長の岡野浩哉先生。
ここで、HRTによって改善が見込める症状を詳しく見てみましょう。
●HRTで改善が見込める症状
・急な発汗
・のぼせ
・ほてり
・イライラする
・疲れやすい
・なかなか寝つけない
・中途覚醒
・抑うつ
・膣炎
・性交痛
・意欲や集中力の低下
など
骨粗しょう症や動脈硬化の予防にも
実は、HRTにはつらい症状を改善するだけでなく、ホルモンが減った先に発症しやすい病気の予防効果もあります。エストロゲンには、骨を強くする、血管をしなやかにする、悪玉コレステロールの増加を抑えるといった働きがあり、自分でエストロゲンを分泌できているときには、これらの作用で女性はさまざまな病気から守られています。ですから、エストロゲンが急減すると、女性は急に生活習慣病などのリスクにさらされるようになります。以下は、更年期以降に起こりやすい体の不調に対するHRTの主な効果です。
●HRTの主な効果
・骨を強くする
エストロゲンには、骨が溶け出すのを抑えて、量を維持し、骨粗しょう症を防ぐ作用があります。
・動脈硬化を予防
エストロゲンには、血管のしなやかさを保つ働きが。悪玉コレステロールを下げる作用もあり、動脈硬化を予防します。
・脂質代謝を改善
エストロゲンには、血中の悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やす作用があります。
・肌の潤いを保つ
エストロゲンには、皮膚のコラーゲンを増やす作用や保水力を維持する作用が。そのため、肌の潤いが保たれます。
・膣の乾燥、かゆみの改善
エストロゲンの保湿作用や皮膚の弾力性を維持する効果は膣にも働きます。膣の乾燥や外陰部のかゆみを防ぎ、性交痛も改善します。
実際にHRTを受けた人の意見には、「家事・仕事に支障がなくなった」「気持ちが明るくなった」「夫・家族関係が円満になった」「婦人科医に気軽に相談できるようになった」(いずれも、三羽良枝:日本更年期医学会雑誌 Vol.12,No.2 282-289(2004)一部改変より)などが挙がっています。つらい症状に悩んでいる方は、一度、HRTを検討してみるとよいでしょう。
次の記事「ホルモン補充療法を始める前に/更年期障害(10)」はこちら。
取材・文/笑(寶田真由美)
岡野 浩哉(おかの・ひろや)先生
飯田橋レディースクリニック院長。群馬大学医学部卒業後、同医学部附属病院産婦人科、 東京女子医科大学産婦人科などで臨床経験を経て、平成20年に飯田橋レディースクリニック設立。 「患者にやさしい医療」をモットーに、新聞・雑誌等メディアへ執筆多数。