『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』 (舛森 悠(Dr.マンデリン)/KADOKAWA)第7回【全7回】
北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
万人に当てはまる健康ルールは残念ながらありません
皆さんはなんのために生きていますか? 明確な目的がある方もいらっしゃるでしょうが、どんな目的であれ、最終的には「幸せになる」ために生きているのではないでしょうか。
「人の役に立てる幸せ」「孫の成長を見られる幸せ」「おいしいものを食べる幸せ」「好きなことに打ち込む幸せ」......そんな日常の幸せが大事だと僕は考えています。
健康を害すれば、当たり前の日常が失われることだってあります。しかしそうなっても、病気と付き合いながら幸せに暮らしている人もいます。実際、そうした例を僕はいくつも見ています。
僕が訪問診療で担当しているUさんは、70代後半の女性ですが、事故で下半身を動かせず、ベッドの上で生活されています。
しかし、Uさんのことが大好きな旦那さんと一緒に、夫婦仲睦まじく過ごされている様子は、いつ見てもとても楽しそうです。
「昨晩はお祝いで日本酒を3杯も飲みました」「土用の丑の日のうなぎがおいしくって、2日連続でうなぎを食べちゃいました」などといった話をいつもニコニコしながらしてくださいます。
そしてもう1人、糖尿病と尿酸値が高いため僕の外来に通院しているKさんは酒屋の3代目で、仕事で試飲をする以外にも、毎日の晩酌を楽しみにしています。
お父さんをアルコールによる肝硬変で亡くされていますが、いつも「私は父を誇りに思っています。私の病気にアルコールがリスクなのは重々承知していますが、代々受け継がれてきたこの酒を愛しているから飲んでいるんです」とおっしゃっています。
僕が医師としてKさんに貢献できるのは、愛する日本酒を楽しみながら、元気に仕事を続けられるようにサポートすることだと思っています。
肝臓の機能を定期的に調べたり、肝臓にダメージがあった場合にはお酒以外の原因はないかを調べたり、禁酒以外にもできることはあります。飲酒量が増えてしまった場合には、今後は節酒(お酒の量を減らすこと)を提案することもあるかもしれません。
ただし、Kさんに禁酒を勧めるつもりはありません。お酒を楽しく飲んでいる患者さんに、健康を理由に飲酒をやめさせる権利は、僕にはありません。
でも、仮にそれで体の一部が悪くなるのを防げたとしても、あなたの人生全体が幸せになるとは限らないと、そんなふうに僕は思うのです。
昨今は「健康を害するから、健康のために我慢しましょう」という風潮ですが、これはいかがなものかと思います。
医療の発展であらゆることがデータ化され、何がリスクを高めるかが明確になってきました。しかし一方で、それが広まることで「あれはよくない」「これはよくない」となり、生きづらさを感じている人も多いのではないでしょうか。
そのうち「健康のためなら死んでもいい」なんて冗談のようなことを言い出す人も現れるかもしれません。
僕は、人生は長さがすべてではないと考えています。医師なのにこのように言うのは不謹慎かもしれませんが、幸せなら、太く短くたっていいのではないでしょうか。
そもそも健康とか長寿とかいうのは、幸福のための一要素にすぎないとも思っています。
健康を害していても、幸福な人はたくさんいます。僕自身も、健康のためだからといって好きなことやりたいことを我慢しすぎたり、ストレスをためたりしないで、日々を楽しんで生きていきたいです。だから、もし僕の患者さんも同じように考えていらっしゃるなら、その想いを全力でサポートしたいのです。
「自分にとって心から大好きなものを我慢して、体の一部の健康を勝ち取った結果、総合的に見たら不幸な人生になっていた」なんてことにならないようにしなくてはなりません。