なぜ「家事ができない男性」は早く老いるのか。命を支える暮らしの基盤【現役看護師が伝える】

なぜ「家事ができない男性」は早く老いるのか。命を支える暮らしの基盤【現役看護師が伝える】 pixta_83626218_S.jpg

『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』 (著:高島 亜沙美、 監修:西 智弘/KADOKAWA)第1回【全7回】

「最期まで自分らしくいたい」と願う一方で、老いや死という現実に目を向けるのは少し勇気がいるものです。しかし、納得のいく人生を締めくくるには、実は「事前の準備と心の努力」が欠かせません。書籍『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』(KADOKAWA)では、現役看護師・高島 亜沙美さんが、老いゆくプロセスから介護保険の実情、終末期医療の選択肢までを丁寧に解説。ただ不安を煽るのではなく、「自分らしい最期」を具体的に描くためのヒントを授けてくれます。死を考えることは、決して後ろ向きなことではありません。最良のエンディングを準備することは、今日という日をより大切に生きるための、自分への最高のギフトになるはずです。

※本記事は高島 亜沙美 (著)、 西 智弘 (監修)によるムック『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』から一部抜粋・編集しました。

自己の自立と尊厳を守るための基盤を作っておこう

生活の自立は、いのちと人生の質を保つための重要な基盤です。

生活の自立

人間は、生活が基盤です。掃除も料理もゴミ出しも、すべて自分自身のいのちと健康に直結しているから、嫌だと感じる人がいながらもみんななんとかやっているんです。時短やラクラクなんていうコピーのついたライフハックが人気なのも、その表れではないでしょうか。そのため、生活が崩れると一気にダメになります。

奥さんにすべて家事をやってもらっていた男性が、奥さんに先立たれて数週間で生活が破綻してしまうのはこういう理由です。(この本の)第3章の「介護保険の仕組みと実情」で社会的入院という言葉を出しましたが、あれは言い換えると「ひとりで生活ができない」になります。それほど、生活するということは、いのちと健康に直結しています。

生活習慣病なんて、まさにそう。生活を舐めた結果です。運動習慣があって、お酒もタバコもやりません、という人が生活習慣病を抱えていることは、やはり少ないと思います。個人的には、全人類、一回はひとり暮らしをしたほうがいいと思っています。ひとりで生活できると思っていても、意外といろんな人に支えられていることがわかりますからね。 

ここでひとつ、こんな事例があるよということで、出口治明さんの例を紹介させてください。ライフネット生命を立ち上げたあと、APU(立命館アジア太平洋大学)の学長になられた方ですが、あるとき脳卒中で倒れます。ですが、計画的なリハビリを1年以上おこない、見事に社会復帰されます。正直、こんな70代男性を、わたしは見たことがありません。彼は、車椅子でひとり暮らしもされています。ということは、ある程度の家事や身の回りのことは、自分でできるということです。これまた信じられません。

彼の場合、70代であるにもかかわらず社会的立場や役割があった、学長として働くという復帰するための明確な理由があった、自尊心やプライドをコントロールできたなどさまざまな理由がありますが、基盤となったものは自分で生活すること、にあったように思います。学長として復帰するため、という目標から逆算して、リハビリにかける労力を発声やコミュニケーションに全振りしたんです。そのため、彼は何もつかまらないでひとりで歩くことはできません。電動車椅子が相棒です。それでも、学長としてはたらき、家に帰ってきて生活するには十分な能力です。療養とこれからの人生を考慮しての意思決定としても、実際の結果としても、あっぱれな事例だなと思います。

ただ、すべての人が出口さんと同じようなことができるかと問われたら、わたしは到底そうは思えません。リハビリの内容だったり、リハビリ担当者との関わりだったり、リハビリ患者さんのオリンピックがあったら間違いなく金メダルを取れるようなレベルで、自身を追い込んでいます。プロの言うことにも忠実。実際、出口さんの書籍(*)で、担当の理学療法士はこのように述べています。


「いきなり『身体を動かしながら声を出しましょう』と言われても、『何のためにやるの?』と疑問や警戒心を持つ患者さんもいますし、とくに男性では『こんなことをやるのは恥ずかしい』という人もいます。患者さんがリハビリでやることに疑いを持ち、受け入れるのに時間がかかるようなことは珍しくはありません。
 
ところが出口さんは疑いを持たず、私たちが言ったことに真面目に一所懸命取り組んでくれました。嫌な表情をしているところは一度も見たことがありませんし、こちらを無条件に信用してくれている印象でした。

(中略)

脳卒中で障害が出ても落ち込まない患者は、珍しいそうです。樗木慎也(おてきしんや)さんもこう振り返っています。

「理学療法は身体を使うので、うまくいかなかったときは言葉を選びながら『いまのはできていません』とお伝えするのですが、出口さんは落ち込んだことがありません。これはいままで私がリハビリを担当した患者さんで、他に例がありません。絶対に落ち込む場面があるので、とても印象に残っています。

あと、リハビリでは患者さんが療法士の指導を受け入れられず、ケンカのようになる場合もあるんですが、それもありませんでした。『こんなことはできない』と拒否されたり、逆にその時期ではないといくら説明しても『もっと歩きたい』と言われたりする場合があるのですが、出口さんは私たちの言うことに対してはすべてイエス。訓練でノーと言われたことはありませんでした」


どうでしょう。出口さんと同じような振る舞い、みなさんにもできますか? こういう考えや振る舞いができるからこそ、社会的にも成功したのだなと、わたしは感じてしまいました。

出口さんのようにとまでは行かずとも、いざというときに備え、少しずつでも身の回りのことを自分でできるようにしておきましょう。

*出口治明『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』講談社(2022年)

 
※本記事は高島 亜沙美 (著)、 西 智弘 (監修)によるムック『人生の終わり方を考えよう 現役看護師が伝える老いと死のプロセス』から一部抜粋・編集しました。
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