「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった本連載を、今回特別に再掲載します。
※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
【前回】「肺がん、ステージ4」妻はなんて言うだろう? 僕の病状を知った妻の「意外な反応」
死の恐怖
僕は電気を消して布団にもぐりこんだ。
長い1日だった......まさか、ステージ4だなんて......。
掛川医師の顔が浮かんできた。
頭の中の掛川医師は淡々と言い放つ。
「病気の名前は、肺がんです」
「残念ですが、4期、ステージ4です」
「進行している可能性があります」
スマホの画面が頭をよぎる。
1年生存率30%、5年生存率10%以下......。
来年、生きている可能性が3割なのか......5年後は生きていないかもしれない......。
頭の中を掛川医師の言葉が響き渡る。
「残念ですが、4期、ステージ4です」
「残念ですが、4期、ステージ4です」
「残念ですが、4期、ステージ4です」
「残念ですが、4期、ステージ4です」
「残念ですが、4期、ステージ4です」
突然、僕は重大なことに気づいた。
僕は、死ぬんだ!
僕は、死んじゃうんだ!
掛川医師の陰気な顔が真っ暗な部屋の中いっぱいに現れる。
「進行性の肺がんで、手術はできません」
「リンパにも転移しています」
「残念ですが、骨にも転移しています」
ああー、どうしよう!
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!
僕は完全に恐怖に捕まった。
死んだらどうなるんだろう?
死んだら、何も考えられなくなるのかな?
死んだら消えちゃうのかな?
消えるってどうなっちゃうことなんだ?
消える?
僕は、消えるのか!?
「抗がん剤は効くかどうかわかりません。やってみなければわからないのです」
「そうやって、薬をつないでいくしかないのです」
怖い、怖い、怖い。
僕は、がんで死ぬのか?
死ぬのが怖い、死ぬのが怖い、死ぬのが怖い!
恐怖をかき消すように、心の中で叫ぶ。
いや、治るんだ! 治すんだ! 絶対に生き残ってやる!
打ち消すように掛川医師が言葉をかぶせてくる。
「肺がんはがんの中でも難しいがんなのです」
頭を抱えて反論する。
うるさい!
僕は生き残るんだ!
がんを消すんだ!
絶対に死ぬもんか!
死の恐怖は、むなしい抵抗をあっという間に吹き消していく。
「無理です。あなたは延命治療しかできません」
「もう、助かりません」
死ぬ、死ぬ、死ぬ、僕は死ぬんだ! 死んじゃうんだ!
妻と2人で年を取りたかった。
白髪の妻が見てみたかった。
子どもたちが社会人になる姿が見たかった。
孫を抱きたかった。
もっともっと、家族で時間を過ごしたかった。
もっと一緒にいたかった。
もっと話をしたかった。
もっと一緒にどこかへ行きたかった。
涙があふれてきた。
なんで、どうしてできないんだ!
僕よりも悪いことしているヤツ、いっぱいいるじゃないか!
なんで僕なんだ!
不公平だ!
僕以外にもいっぱいいるじゃないか!
なんで僕なんだよ!
いやだ、いやだ、いやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない!
頭の中を何かが暴走していた。
心臓が高鳴り、脈拍が速くなる。
真っ暗な暗闇から何かが僕をつかみ込んで、漆黒の穴へ引きずり込もうとしていた。
いやだ! いやだ! いやだ!
抵抗むなしく、ぐるぐると回転しながら底なしの穴へ落ちていく。
死にたくない!
怖いよう!
頭を抱えて布団の中をゴロゴロと転がる。
暗闇は僕を捕らえて離さない。
夜は無限に続くように思われ、僕は真っ暗な部屋の中でもだえ苦しんだ。
眠れない、こんなの眠れるわけがない!
う......うわーっ!
恐怖にのたうちまわっているうちに、窓から光が差し込んできた。
気づくと、朝になっていた。
結局、一睡もすることはできなかった。
明るくなった部屋で腫れた目をこすりながら思った。
夜になったら、またこれがやってくるのか......。
夜が怖い......。
眠れる日は来るんだろうか?