"介護破産"寸前だった週刊誌記者に訪れたある転機/介護破産(24)

pixta_23051850_S.jpg毎週金、土、日曜更新!

介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

◇◇◇

前の記事「介護離職後に一から勉強。"生涯現役"で働く男性(63歳)の思い/介護破産(23)」はこちら。

 

「介護破産」寸前を味わって

本書『介護破産』筆者(村田くみ)も介護離職を経験した一人。「介護破産」とまではいかなくても、介護に無駄なお金を使いすぎて貯金が底をつきそうになったところまで行き、なんとか踏みとどまった経験があります。

「どうして自分ばかりがこんな目に遭うのか」

介護がスタートしたときは、私の心の中には穏やかではない、否定的な感情が渦巻いていました。人生が一変する出来事が起きたのは今から約10年前、父が末期がん(享年78歳)で急死したことがきっかけです。

大手新聞社で週刊誌記者をしていた私は、好きな仕事に没頭し、稼いだお金は自分の趣味や教養に投資する〝パラサイトシングル″そのもので、同居していても親の体調の異変などまったく気にも留めませんでした。がんが見つかってから半年も経たないうちに父が逝き、母(当時74歳)と二人の生活がはじまりました。元々、父よりも母のほうが病気がちだったのと、精神的な落ち込みもあり、床に臥す日が続きました。

一周忌の準備をしている頃、今度は母が急性心不全で倒れてしまったのです。運ばれた病院の医師からは、「準備をしてください」と死の宣告を受けましたが、何日経っても、あの世からのお迎えは来ない。2週間ほど経ってようやく意識を取り戻しましたが、喜びもつかの間。その瞬間から、介護がはじまったのです。

仕事中心の生活が一変し、介護中心の生活になりました。ちょうど私は30代後半にさしかかるとき。「教育訓練給付制度」を利用してファイナンシャル・プランナー(AFP、FP2級)の資格を取るために、学校に通いはじめた頃です。ところが、あまりの忙しさに勉強どころではなくなってしまったのです。通常、4~5か月程度通えば講座は修了するところ、1年もかかってしまいました。何度か試験を受けても落ち続けてしまい、そこで勉強をやめてしまいました。

描いたキャリアプランの通りに物事が進まないことで、不安や焦りが生じて、ささいな出来事をきっかけに母に八つ当たりしてしまったこともありました。「将来自分はどうなるのだろう?」漠然とした不安や、やりたい仕事が思うようにできないことで、私自身も感情のコントロールができなくなりました。ちょうどその頃、仕事もハードになり、毎週徹夜が続き、不眠から睡眠導入剤や感情をコントロールする薬を処方してもらうようになったのです。

転機が訪れたのは2011年3月11日、「東日本大震災」です。
志半ばでこの世を去った人たちの無念を取材するなかで、もう一度、自分をみつめ直し、人生をリセットしたのです。「自分の武器は何か」を考え直し、再びFPの勉強をはじめました。そして、父の命日に会社に辞表を提出しました。

フリーランスのライターになったことで、収入は不安定な立場になりました。それ以前に父の葬儀の費用やお墓を建てたり、母を在宅で介護していたときに実費のサービスをかなり使い、貯金が底をつく寸前までいきましたが、仕事が増えるとともに収入も比例して、生活が安定しました。そして、母の体調が年々悪くなり、急に病院に連れて行くようなことが多々あっても、時間の都合をつけやすくなりました。

2013年、周回遅れでもやっとFPの試験に合格したとき、心の重しが軽くなった感じがしました。昔のように、薬に頼って気持ちをコントロールするようなことはなくなりました。少し頭に血がのぼったときでも、「更年期だから仕方がない」と、笑い飛ばせるようになりました。それは、達成感を得られる仕事ができ、余裕が出てきたからだと自分なりに分析しています。

父が急死してからは「トラブル続きの人生だ」と、いつも悲観していましたが、「介護のおかげで世界が広がった」とようやくいえるようになりました。
介護はまだまだ続いていますが、この先不安な出来事があったとしても、そんなにへこむことはないと思っています。介護と仕事の両立で悩む人は本当に多いのですが、仕事もキャリアも決してあきらめないでほしい。時間はかかるかもしれませんが、ささいなことがきっかけで長いトンネルから抜け出せることもあるものです。

  

次の記事「50歳を過ぎると10%以上が親の介護に直面する/介護破産(25)」はこちら。

結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

syoei.jpg
『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。

キーワード

PAGE TOP