介護離職後に一から勉強。"生涯現役"で働く男性(63歳)の思い/介護破産(23)

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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。

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大手企業に勤務していた経歴を持つ人を積極的に採用する中小企業や同業他社もある。口コミで職を紹介してもらうためにも、ふだんのつきあいが大切だ。在職中に社外とのネットワークを築いておくことは欠かせない。

東京都内の柳澤健一さん(63歳)は6年前、認知症の母(享年89歳)の介護でアパレル関係の人材派遣会社を辞めた。退職後に生きたのは、かつての人脈。当時のつながりを活かし、今はデザイナーをアパレルメーカーに紹介する仕事をしている。

退職したときのことを「後先を考えずに会社を辞めてしまった」と振り返る。「日中に母を一人で留守番させるのが心配で、デイサービスを利用していました。母の帰る午後3時半に、家に戻る必要があった。妻も息子も仕事を持ち、私が母の面倒を看ることに。管理職の立場で、遅刻と早退を繰り返すたびにうしろめたい気分が募りました。介護休業制度を調べたり、人事担当に相談したりする余裕がなく、会社に迷惑をかけられないと思い退職しました」

その後、個人で仕事を請け負いはじめたが、母の面倒を24時間看る生活が続いた。仕事に身が入らず、十分な収入を得られなかった。
蓄えが減り、飲み代も惜しくなり、友達とのつきあいが途絶えた。引きこもりがちとなり、母へ八つ当たりしたことさえあった。

離職から2年後、転機が訪れた。
母が大腿骨を骨折し、車椅子生活に。老人保健施設を経て、特別養護老人ホームに入所した。柳澤さんは自分の時間が増え、仕事に集中できるようになった。「仕事に本腰を入れようと一から勉強し、職業紹介の免許を取得し、個人オフィスを2011年9月に立ち上げました。少しずついい案件が入り、成約率も上がった。いい仕事ができると自信につながります。ビジネスのヒントが色々と浮かび、空いた時間にデザイナーと意見交換するなど、好循環が生まれました」

母は2014年に他界した。ただ、「できることはやった」と振り返る。今は、自らの体験を介護者の会で語れるまでになった。
介護経験は、自らの生活や働き方を見直す転機になったと振り返る。

離職でお金を使わない生活を経験し、無駄遣いしなくなった。自宅がオフィスのため、固定費がかからない。パソコンやSNSを使えるように勉強し、簡単な資料は自分でワードやエクセルでつくる。パワーポイントでのプレゼンも習った。「教室に通うとお金がかかりますが、フェイスブックで知り合った友達に教えてもらい、喫茶店代ぐらいで済んでいます」という。

介護しながら働くことが当たり前の社会をつくりたい―。
そんな思いから、柳澤さんは前出の介護離職防止対策促進機構の理事に就任。

企業の人事担当者向けの講座を開き、介護者の実情や介護保険の仕組みを伝え、離職防止に役立ててもらっている。「介護離職の結果、手に職をつけて生涯現役で働ける道筋ができました。今はすばらしい生活なので、定年まで働き続けた場合とどちらがよかったかも、比べません。一人でも多く、働く介護者が活躍できる世の中になってほしい」

柳澤さんはこう願っている。

  

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。

村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。

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『介護破産』
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)

長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。

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